http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201809/CK2018091402000186.html
https://megalodon.jp/2018-0914-1011-52/www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201809/CK2018091402000186.html
「今のうちに対策を講じないと、後手に回ってしまう」。中国帰国者の父勝夫さん(73)を介護する名古屋市港区の木下貴雄さん(53)は、こう危機感をにじませる。
介護施設に勤める貴雄さんは二〇一四年、名古屋市のNPO法人「東海外国人生活サポートセンター」を設立。市内の二団体と「外国人高齢者と介護の橋渡しプロジェクト」を始め、まずは中国語に特化した「介護通訳者」の養成に乗り出した。
こうした取り組みには前例がなく、ケアマネジャー(ケアマネ)や医療通訳者ら専門家を交え、養成カリキュラムの内容から手探りだった。勝夫さんのケースを基に、要介護者や家族、ケアマネ役などを設定し、要介護認定の調査、サービスの契約に関する説明などの場面を演じ、介護を受けるまでの流れが分かるビデオとテキストを作成。ケアプランの書式、高齢者に多い病気など、介護や医療の専門知識も伝える内容にした。
一五年度から二年間、トヨタ財団(東京都新宿区)の助成を得て、一定の日本語、中国語の能力がある日本人、中国人二十七人を通訳として養成。一年間、無償ボランティアとして試行し、名古屋市内へ四十三回派遣した。
派遣先で多かったのは、デイケアやデイサービス施設などだ。貴雄さんは「介護現場はやりとりが濃密で、生活にも踏み込む。利用者と職員、利用者同士の会話など、コミュニケーション全体を支援できる人を育てたい」と話す。
厚生労働省の一五年度の調査では、中国残留孤児を含む中国帰国者の平均年齢は七十六歳。回答した帰国者三千六百五十四人中、四人に一人は要介護、要支援の状態になっている。しかし、介護保険制度を知らないと答えた帰国者は36%もいた。
厚労省は中国語が通じる施設をホームページで紹介するなどしているが、介護保険のメニューには、日本語が不自由な人への通訳はない。加えて、言葉の壁を感じるのは、中国帰国者や中国人だけではない。在留外国人は増加しており、一七年十二月の時点で六十五歳以上は十六万八千人で、全在留外国人の6%に当たる。
日本に三カ月以上在住し、住民基本台帳に登録された外国人は介護保険料を払えば、サービスを受けられる。「短期間労働のつもりで来日した外国人が、定住する場合もある。その人たちが高齢になるのは当たり前。一方で介護保険のシステムは利用者が日本人という前提。外国人をサポートする制度がない」と、金城学院大の朝倉美江教授(58)は指摘する。介護通訳の取り組みを評価し「最期の段階まで人間らしく過ごせるよう、通訳は最低限、必要なもの。行政が支える動きにつながってほしい」と話す。
貴雄さんらは外国人が多く集まる催しなどで、中国語のほか、韓国語やスペイン語などでも介護保険制度を周知。貴雄さんは「必要な介護を受けられず、孤立している人もいる。この実態を多くの人に知ってもらい、考えてほしい」と呼び掛ける。
介護通訳については、同プロジェクト事務局=Eメールkaigotuyaku2015@gmail.com=へ。利用料は一七年四月から三時間以内で五千円。 (出口有紀)