(筆洗)「無関心が平和を脅かす行為や政策を助長し、正当化するのです」 - 東京新聞(2016年5月20日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016052002000133.html
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二百五十人を超える少女が、学校の寮から連れ去られる。そんな衝撃的な事件が西アフリカのナイジェリアで起きたのは、二〇一四年の四月十四日のことだ。ボコ・ハラム。「西洋教育は罪」という意味の通称を持つ過激派組織の仕業だ。
数十人は直後に逃げ出すことができたが、二百十九人の少女たちの足跡は消えた。その年のノーベル平和賞を受賞することになるマララ・ユスフザイさんは「彼女らを忘れるのは、自分の姉妹を忘れるようなこと」と語った。
事件発生から七百六十五日。拉致された少女の一人が救出されたという。二度と会えぬと思っていたお母さんと再会を果たし、二人で地面に倒れ込むようにして抱き合ったそうだ。
この少女は、既に六人の少女が死亡したと語っているといい、二百十二人の行方は知れぬままだ。ナイジェリアでは少女たちを使った自爆テロも何度も繰り返されている。そうして名も知られぬまま消えた少女たちもいる。
今年の一月、ローマ法王フランシスコは世界に向け、こう語った。「平和の敵は戦争だけではない。無関心も平和の敵です」「無関心が平和を脅かす行為や政策を助長し、正当化するのです」
遠いアフリカの地で自由を奪われたままの少女たちに、思いをめぐらす。不条理な暴力の前ではいかにも無力な営みのようだが、それも「無関心」とのたたかいの一つだろう。