http://mainichi.jp/articles/20160503/ddm/001/070/088000c
http://megalodon.jp/2016-0505-0906-27/mainichi.jp/articles/20160503/ddm/001/070/088000c
「例外のない規則はない」という規則に例外はあるか?−−あると考えても、ないと考えても矛盾にはまる。頭がこんがらがるこの手の話をパラドックス(逆説)という。どうも憲法にも「例外のパラドックス」問題があるらしい。
災害や有事の際、人権などの憲法秩序を一時停止して政府に非常権限を与える案が改憲の主要テーマに浮上している憲法記念日である。この権限は「国家緊急権」ともいう。しかし政府が憲法を破れる条項を憲法で定める「例外」はパラドックスを生まざるをえない。
政府の非常権限を厳格に定めれば緊急事態で破られる可能性が増す。逆に抽象的に規定すれば権限の乱用の危険が高まる。このジレンマは「国家緊急権のパラドックス」といわれる(佐藤幸治(さとうこうじ)著「日本国憲法論」成文堂)
ドイツの基本法が冷戦下で導入した緊急権条項は非常事態の分類や乱用への歯止めを厳格に定める多数の条項からなる。だがどんな規定もジレンマから逃れられない。併せて設けられたのは、憲法秩序を守る市民の側にも超法規的な「抵抗権」を認めた条項であった。
もちろんナチスによってワイマール憲法の緊急権条項が国家乗っ取りに利用された歴史が背景をなしている。民主的に選ばれた多数派であろうと民主主義や人権の破壊は許さないのが憲法の役目だが、国家緊急権がその抜け道に使われた。「例外」の恐ろしさである。
緊急事態条項は当の憲法秩序を守るぎりぎりの選択肢というのが論議の前提だ。もし憲法の制約を疎んじる政権が、現実の必要と関係なく改憲しやすいテーマと思っているのなら、それこそ非常事態だろう。