(余録)「1日でいいから、半日でいいから… - 毎日新聞(2016年4月30日)

http://mainichi.jp/articles/20160430/ddm/001/070/132000c
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「1日でいいから、半日でいいから、子どもをみなくて済む時間がほしい。そう願いながら土曜も日曜も職場で仕事をしていました。先週からずっと終電に近い電車で毎日帰宅しており、通勤だけでも必死です」
大卒3年目の保育士、A子さんから3月末にこんなメールが届いた。「友だちのSNSの投稿を見ると、飲み会とか美容院とかお花見とか。もう全部うらやましくしか思えなくて。ああ、いま心が荒(すさ)んでいるなって思います」
母子家庭で育ち、奨学金を得て大学に通った。就職した保育所の初任給は約15万円。奨学金の返済と生活費でほとんど手元に残らない。それでも「子どもたちと毎日すごせて楽しい」と胸を躍らせていたA子さんだった。
「保育園落ちた」の匿名ブログをきっかけに、待機児童が国政の重要な問題となった。保育士不足を解消するには待遇改善が必要として、政府は給与を月額2%(約6000円)引き上げ、ベテラン保育士には特に手厚く配分することを検討している。
賃金だけでなく、忙しすぎる労働条件の改善も考えるべきだ。どんなに子どもが好きでも、A子さんのように朝から晩まで休日もなく子どもに囲まれていれば疲れるのは当然だ。保育士の資格があっても働いていない「潜在保育士」は70万人もいる。子どもが嫌いで辞めるわけではないのだ。
サクラが散ったころ、A子さんからまたメールが届いた。「保育中に激しい頭痛に襲われて歩けなくなり、来週までお休みをもらうことになりました。子どもたちに本当に申し訳ない気持ちになりました」。政府も自治体も対策を急ぐべきである。