<ハンセン病>元患者ら「身内に甘い判断」特別法廷報告書に - 毎日新聞(2016年4月25日)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160425-00000085-mai-soci
http://megalodon.jp/2016-0426-0907-15/headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160425-00000085-mai-soci

「身内に甘い判断だ」。最高裁が25日公表したハンセン病患者の特別法廷の調査報告書が「違憲」と明記しなかったことに対し、元患者たちは不満をあらわにした。熊本県合志(こうし)市の国立ハンセン病療養所菊池恵楓(けいふう)園で25日、記者会見した入所者自治会の志村康会長(83)は「最高裁が司法手続きの誤りを認めて反省するのは異例だが、違憲性を認めなければ謝罪にならない」と歯切れの悪い報告書に異議を示した。
記者会見には入所者自治会の長州次郎さん(88)=仮名=の姿もあった。長州さんは、自分の目で見た特別法廷の姿を現地調査に訪れた最高裁有識者委員会のヒアリングで語ってきた。「遠い遠い東京から届いたファクスの報告書は胸に響かなかった。こちらの真意が伝わっていない」と残念がる。療養所の正門に開廷を知らせる貼り紙があったとされる報告書の内容には、会見に出た元患者4人は「誰も見たことも聞いたこともない」と口をそろえた。
「黒白2色の“くじら幕”で建物が覆われていた」。長州さんは元患者の男性が特別法廷で無実を訴えながら殺人罪などで死刑になった「菊池事件」の初公判時の様子が目に焼き付いている。1951年、入所者自治会の事務所の畳部屋で、元患者の裁判が開かれていると聞いた。背丈を超える幕から裁判の様子をのぞこうと思ったが、同園の職員によって監禁室へ入らされる懲罰が怖くてできなかった。「中で何をしているかわからんかった。裁判が公開されていたとは思えない」
1年後には舞台や観覧席を備えた園内の公会堂の裁判をのぞいたが、同じように入り口は幕で覆われ、告知の貼り紙を見た記憶はない。感染を恐れた裁判関係者が証拠物を火ばしで扱ったという証言も耳にし、「国が助長した差別と偏見に最高裁ですら毒されていたんだ」。そう考えてきた。
報告書は謝罪はしても「違憲」の明記を避けたように思える。「設置手続きに問題があったなら、特別法廷での判決は一つ一つ再検証するのが筋じゃないか」。米寿を迎えた長州さんの語気が一層強くなった。
弁護団らは27日午後4時に最高裁で経緯や説明を受けるという。【柿崎誠】

弁護団長「憲法違反に実質的に触れている点は評価できる」
特別法廷の検証を申し入れた菊池事件再審弁護団長の徳田靖之弁護士は、最高裁の報告書について「法の下の平等を定めた憲法14条違反に実質的に触れている点は評価できる」と話した。
報告書は、ハンセン病国賠訴訟の熊本地裁判決を前提に、遅くとも60年以降の違憲の疑いを認めた。徳田弁護士は「60年以前も特別法廷が差別的だったことは間違いない。60年以降に限定したのは菊池事件の再審に影響することを恐れたのではないか」と指摘した。
弁護団は2012年、検察官が自ら菊池事件の再審請求をするよう検事総長に求める要請書を熊本地検に提出している。徳田弁護士らは近く同地検を訪れ、最高裁の検証結果を尊重し、再審請求すべきだと伝える方針だ。
また、最高裁の裁判官会議が48年に、ハンセン病患者の刑事事件は一律に特別法廷にする前提で事務総局に指定手続きを一任したことも報告書で判明した。徳田弁護士は「事務総局が謝罪をしているが、裁判官会議こそ責任を問われるべきだ」と批判。27日に最高裁を訪れ、検証の継続を求める。【江刺正嘉】

◇「違憲の疑いがある」かなり重い
ハンセン病問題の解決をライフワークにしている江田五月参院議長の話 かなり時間がかかってしまったが、裁判官会議の談話で「心からおわびします」と明記したことは評価したい。有識者委員会が「違憲の疑いがある」と指摘した点を、報告書が「聞き置いた」というような扱いにしている点は残念だが、事務総長が記者会見で「憲法違反の疑いがある」と発言したのであれば、かなり重い。一方で、元患者の家族たちは今年になって熊本地裁に国賠訴訟を起こしている。療養所を負の遺産として後世に残す将来構想もまだ完全ではなく、課題はなお残されている。裁判所には有識者委員会の再発防止に向けた提言をぜひ実行してほしい。

◇裁判官は現場を見て、人権感覚を鋭く
裁判官や法務省人権擁護局長としてハンセン病問題に向き合った吉戒(よしかい)修一弁護士の話 もう少し早くできなかったかという思いはあるが、最高裁が過去の制度運用を検証し、法令違反を認めて謝罪したのは画期的なことだ。療養所は市街地から離れているうえ高い塀で囲まれており、一般の傍聴は難しい。だが、形式的にでも傍聴機会を提供していたならば、憲法違反と断定するのは難しいだろう。東京地裁の裁判長としてハンセン病国賠訴訟を担当した。原告が法廷で本名を名乗らず「原告番号で呼んでください」と言ったことに衝撃を受けた。書面だけで現実を知るには限界がある。裁判官は現場を見て、人権感覚を鋭くしなければならない。