ハンセン病判決 「違憲」なら再審が筋だ - 東京新聞(2020年2月28日)

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ハンセン病患者とされた男性をめぐる一九五〇年代の特別法廷の審理は「違憲」と熊本地裁が判断した。人格権などを侵害したと認めた。男性は無実を訴えており、再審の扉を開くのが筋だ。
特別法廷とは最高裁が認めた場合に裁判所以外で法廷を開く方法だ。ハンセン病患者の裁判では、隔離先の療養所や専用の刑事施設に設けられ、四八年から七二年にかけ九十五件が開かれた。
だが、ハンセン病は感染力が極めて弱く、完治できる病気になっていた。そんな医学的な根拠も無視し、誤解や偏見に基づく隔離政策は続けられた。
特別法廷でも感染を恐れた裁判官や検察官、弁護士が予防服を着て、証拠物を火箸で扱うなど異様な光景があった。公開されるべき裁判が「非公開」であったともいわれる。
最高裁は二〇一六年に「人格と尊厳を傷つけた」と謝罪した経緯がある。しかし、特別法廷の設置が差別的で裁判所法違反だったと認めただけで、違憲とは言明しなかった。その意味で熊本地裁が明確に「特別法廷での審理は人格権を侵害し、患者であることを理由とした不合理な差別で違憲」と述べた意義は大きい。
特別法廷の適否に関する初の司法判断で、法の下の平等にも反し、裁判公開の原則にも反する疑いを認めた。画期的である。
もっとも原告が求めた「検察による再審請求」は「刑事裁判の事実認定に影響する手続き違反ではない」と退けた。この判断には疑問を持つ。裁判が「不合理」な形で進行したのならば、その手続きは正当とは言えまい。
「菊池事件」と呼ばれる今回の事件は男性が殺人罪に問われ、五七年に死刑が確定、六二年に刑が執行されている。だが、男性は「無実」を訴え続けていた。正当とは言えない法廷で審理され、導かれた事実認定がなぜ正しいと言えるのか。裁判をやり直す再審手続きを踏むべきである。
今回は刑事裁判でないし、刑事訴訟法上の再審事由に該当しないかもしれない。それは裁判所に憲法違反の手続きがあろうとは法の想定しえない事態だからだ。ハンセン病とされた被告には裁判所の門さえくぐれぬ不利益が働いた事情を酌むべきである。
男性は既に死刑になり、遺族は差別を恐れ、今なお再審請求に踏み切れない。法の落とし穴があれば検察官が再審を求め、公正な裁判を実現するべきなのだ。