G7外相・広島宣言 オバマ氏も被爆地訪問を - 東京新聞(2016年4月12日)

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先進七カ国(G7)外相が広島の被爆地を訪れ、原爆を投下した米国の国務長官も初めて列席した。「核兵器のない世界」実現へ新たな一歩にしたい。
G7外相会合の広島市開催に合わせ、七カ国外相らが平和記念公園を訪れて慰霊碑に献花し、資料館と原爆ドームを視察した。核兵器を持つ米、英、フランスの外相が被爆地を訪れたのは初めて。
献花後、外相らは子どもたちから、折り鶴で作った首飾りをかけてもらった。被爆し回復を祈って千羽を超す鶴を折り続けたが、十二歳で亡くなった佐々木禎子さん。平和公園にある原爆の子の像のモデルになった少女の思いは、伝わっただろうか。

◆核の非人道性入らず
外相会合ではテロや難民対策など幅広い外交課題を盛り込んだ「議長声明」とともに、核軍縮・不拡散をテーマとした「広島宣言」を発表した。
宣言では、原爆投下により広島、長崎の人々が「極めて甚大な壊滅と非人間的な苦難という結末を経験した」と述べ、「核兵器のない世界に向けた環境を醸成する」ことを再確認した。
米国の外交、安全保障政策を担当するケリー国務長官が加わって、G7外相が原爆投下の悲劇を明言し、核なき世界の実現に向け努力すると確認したことは、意味のある成果だと評価したい。被爆者との面会がなかったことは残念だが、特にケリー長官が国内の慎重論を考慮したとみられる。
日本政府はこれまで国際会議で「核兵器の非人道性」を訴えてきたが、広島宣言では「非人間的な苦難」という表現になった。
国際社会ではここ数年、核を持たない国々が、核の非人道性を根拠にして核兵器禁止条約をつくるべきだと主張するが、核保有国は反対している。今回の宣言でも非人道性という敏感な表現は盛り込まれなかった。

◆抑止より脅威語ろう
宣言では、核なき世界への進展は、単独、二国間、多国間で「漸進的なアプローチを取ることによってのみ達成できる」とした。平均年齢が八十歳を超えた被爆者は一日も早い核廃絶を望んでいるが、国際情勢を考えながら、外交交渉を通じて粘り強く取り組むという現実論が優先された。
日本は唯一の被爆国でありながら、安全保障を米国の核の傘に依存している。だが、原爆の悲劇を直接知るからこそ、議論の比重を抑止力から核の脅威に移すべきではないか。核の非人道性を積極的に訴え、核を持たない国々と、持つ国々をつなぐ役割を果たして、廃絶への道を開いていきたい。
オバマ米大統領は二〇〇九年四月のプラハ演説で「核なき世界」を提唱、ノーベル平和賞を受賞し、核軍縮への期待は大きく膨らんだ。成果を挙げた政策もあれば、むしろ後退したものもある。
ロシアとの間では、新戦略兵器削減条約(新START)を結んだ上、さらなる戦略核削減を訴えた。しかし、ウクライナ問題でロシアとの関係が悪化し、交渉は進んでいない。イランとの間で核開発を制限する合意をまとめる一方で、核実験を続ける北朝鮮には歯止めを掛けられない。
オバマ大統領が提唱し、計四回開かれた核安全保障サミットは、脅威を増すテロリストによる核テロ防止のため国際社会が結束する絶好の機会となった。
では、オバマ大統領は任期中に、被爆地を訪問するのか。日米両国で関心が高まる。
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は大統領の広島訪問を側近が検討し始めたと報じた。プラハ演説を想起させるメッセージを発する可能性もあるという。初来日の時から「広島、長崎を訪れることができれば名誉なことだ」と意欲を示していた。
広島宣言でG7外相は被爆地訪問で深く心を揺さぶられたと表明し、「他の人々の訪問」を希望した。オバマ氏訪問につなげたい。
米国では「原爆投下が日本を降伏に追い込み、犠牲者が増えるのを防いだ」との考えが根強い。昨年の世論調査では、過半数が日本への原爆投下を正当化できると答えたという。

◆米世論の動向がかぎ
広島訪問が米世論の反発を呼び、過激な発言を繰り返す大統領選の共和党候補の一人、トランプ氏らがあおる政治的リスクもある。ハードルは高い。ケリー長官の広島訪問への反応を見て、可否を決めるとの見方もある。
プラハ演説後も、核の脅威がなくなることはなかった。しかし、被爆地・広島から発する声は世界中に響き得る。
大国の指導者の思い切った行動が歴史の節目を刻む。残り任期はわずか。核廃絶への扉をこじ開ける決断をしてほしい。