週のはじめに考える サヨナラ金融資本主義 - 東京新聞(2016年2月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016022902000140.html
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世界経済を覆っている不安を拭うことはできるのでしょうか。G20の財政と金融の責任者が政策総動員を打ち出しましたが、一時しのぎではないか。
所詮(しょせん)、「モグラたたき」をしても後手後手に回るだけで問題を根治しなければ、また繰り返す−。
経済不安の震源地、中国の上海で開かれた二十カ国・地域(G20)の財務相中央銀行総裁会議。目先のリスクを封じ込めようと躍起になる当局者たちの姿をみると、そんな印象を覚えます。
あふれ出させたマネーによる株価や原油価格の乱高下に慌てる陰で、貧困や経済格差といった問題は一顧だにされていないのです。
◆G20の協調と限界
危機とまではいえないが、危機になるおそれがある。そんな不安感の下でG20会合は開かれました。いわく現在の世界経済で不安要因といわれるのは、原油安、株価や為替の急激な変動、そして「世界の工場」だった中国経済の減速だといいます。
しかし、忘れてならないのは、元はといえばリーマン・ショック後に日米欧で強力に進めた金融緩和などが招いた事態だということです。それらが複合的に絡み合っているのが厄介なのです。
例えば、原油安になって産油国の財政が苦しくなったので世界で投資していたオイルマネーが引き揚げられ、それが世界同時株安の一因になった。
また、原油価格が為替相場を左右する大きなウエートを占めるようにもなったこと。その原油価格はといえば、中国経済の減速によって原油の需要が減り、それが値崩れを加速させた面がある。このようにマネーを媒介して不安要因同士が絡み合い、共振して危機を拡大させるのです。
そこでG20は、目の前の不安要因を一斉に封じ込めようと、各国が協調して政策総動員することを決めました。すなわちマネーの移動が市場を不安定化させるのだから資本流出対策を打ち出す。自国に有利な通貨安を競う動きが強まれば他国にしわ寄せがいくので通貨安競争をやめる。過剰な生産設備を抱える中国は早く消費主導の経済へと構造改革を急ぐ。余力のある国は財政出動して景気を刺激する、といった具合です。
◆借金日本の異常金利
でも、これらはどうみても対症療法でしかありません。会合では金融政策の限界論も一部に出たようですが、それでも目先のリスクにとらわれて金融緩和を続け、財政出動に頼るのです。日本と欧州は「まだ追加緩和の余地がある」といった姿勢ですし、米国は昨年末、九年半ぶりに利上げに踏み切ったが、それが中国や新興国からの資本流出を招いたとして今後の利上げに「待った」がかかった格好です。
これでは緩和マネー中毒から抜け出せず、バブルを繰り返すことでしか景気を立て直せない。問題は、立ち直ってもちょっとしたショックで世界同時株安が起きる脆弱(ぜいじゃく)な経済なのです。
それはサマーズ元米財務長官が二年以上前に唱えた「長期停滞論」の通りなのかもしれません。その長期停滞論によれば、実質金利がマイナスで推移しても、国内総生産(GDP)の水準が経済の実力(潜在GDP)を下回ったり、勤労者の所得が増えなかったりすると指摘しました。
まさに日本がその典型です。異次元の金融緩和を三年続けてきたが、一向に物価上昇目標は達成できず、GDPの伸びもほぼゼロ。追加緩和を繰り返し、マイナス金利という手法にまで至りました。世界一の借金を抱えた国なのに金利は下がり続け、とうとうマイナスです。
しかし、これはむしろ借金まみれだからこそのマイナス金利とみるべきかもしれません。国の利払い費が抑えられるからです。すでに無きに等しい財政規律が一層緩むおそれがある。
参考までにサマーズ氏の処方箋はというと、職業教育の拡充や企業の技術革新力(イノベーション)の底上げ、インフラ更新などの公共投資拡大を挙げています。確かに、日本では「革命的」な新製品やサービスが出たとしても小粒化しているといえるでしょう。
◆貧困・不平等の解消を
「格差拡大は経済成長を妨げる」−。先進国クラブといわれる経済協力開発機構OECD)が、そんなリポートをまとめたのは一年半前です。それは、消費を担う中間層が減少し、何より所得格差は教育機会の格差となって将来の国富の喪失につながるのだ、といいます。
つまり成長戦略というのなら格差を縮める政策こそが重要なのです。アベノミクスも刷新し、貧困や不平等解消を目指す真の成長戦略をG20会合の場などで堂々と発表してもらいたいものです。