保育士配置緩和 賃金アップこそ本筋だ - 東京新聞(2016年2月18日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016021802000144.html
http://megalodon.jp/2016-0218-1056-52/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016021802000144.html

待機児童対策で生じた保育士不足に対応し、国は認可保育所の保育士の一部を小学校教諭などで代えられるようにする。保育現場に人材が集まらないのは待遇が悪いからだ。賃金アップがまず筋だ。
わが子の通う保育所はどうなるのか、親は不安になるだろう。
厚生労働省は省令を改正し、四月から認可保育所で子どもの年齢や人数に応じて定められる保育士の配置基準を緩和する。内容は(1)保育士の一部を幼稚園や小学校、養護の教諭資格を持つ人に代えられる(2)園児が少ない時間帯は保育士とともに無資格の職員を保育者として活用できる−など。
背景には保育士不足がある。二〇一七年度までに待機児童解消を進める国は、五十万人分の受け皿を増やし、九万人の保育士が足りなくなると試算する。
だが、昨秋の保育士の有効求人倍率は二倍近く、東京都では五倍と突出する。だから保育士を補うために小学校などの教諭資格者を「近接職種」として配置するという。この発想は乱暴にすぎないか。保育士も教諭もそれぞれに必要な知識や技能は異なる。
問題なのは、緩和策を「待機児童解消のめどがつくまでの時限的措置」としながら、終了時期を示さずに省令というルールまで変えようとしている点にある。結局は専門性に欠ける職員を増やし、保育内容や安全面などで混乱を招くのではないか。何より、人材集めに苦労する現場の改善を強調しながら、保育士不足の本質が保育現場の労働問題、貧困問題だという視点が抜け落ちている。
人材が集まらないのは報われないからだ。国の調査では、保育士の平均給与は一般労働者に比べて十万円ほども下回る。保育士資格を持つ人は百二十万人いるのに、実際に保育現場で働くのは四十万人のみ。ハローワークで職を探す人のうち、保育士資格を持つ人の多くが保育職を希望しない。
保育士が必要だというなら、離職が絶えない労働環境を改めるしかない。国は消費税の増税分で、子育て支援策に一兆円を充てると約束したが、保育士の配置基準改善などのための三千億円は確保されていない。ほかの事業よりも優先度を上げて、保育士の処遇改善に予算を投じるべきだ。
正規雇用が増えた若い世代では共働き世帯が圧倒的に多い。保育ニーズが高まる中で国や行政はどんな保育を提供するのか。予算を抑えた安上がり策では親や子、保育士を不安にさせるだけだ。