(筆洗)二十四日の夜、九十四歳で逝った報道写真家・福島菊次郎さんの指は、生涯にわたってカメラを握り - 東京新聞(2015年9月27日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015092702000121.html
http://megalodon.jp/2015-0927-1255-29/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015092702000121.html

二十四日の夜、九十四歳で逝った報道写真家・福島菊次郎さんの指は、生涯にわたってカメラを握り、シャッターを切り続けたせいで、変形していたという。
その原点となったのは、広島で被爆して妻を失い、自らも原爆症と極貧に苦しみながら、子どもを育て、そして死んでいった一人の男性が吐いた、こんな言葉だったそうだ。
「ピカにやられてこのザマじゃ、口惜(くや)しうて死んでも死に切れん、あんた、わしの仇(かたき)をとってくれんか」「写真を撮って皆に見てもろうてくれ。ピカに遭うた者がどんなに苦しんでいるか分かってもろうたら成仏できる。頼みます」
発作を起こし、「体がちぎれる」と叫んで畳をかきむしる姿に肉薄し、福島さんはシャッターを切り続けた。そうして撮った作品は反響を呼んだが、代償もあった。彼自身、精神をさいなまれたのだ。
真実に迫り、切り取るという営みには、自らの心の闇を接写するような怖さが潜む。そういう恐怖におびえつつ、福島さんはカメラを手放さなかった。同級生の半数が戦死した世代の責任として、戦後日本が再び戦争へと向かっていないか、見定めようとし続けたのだろう。
遺作ともいえる写真集『証言と遺言』に福島さんは<「死なない写真」を撮らなければならない>と書いた。死んでも死にきれぬ思いを抱えつつ逝った人たちの声を、百年先にも伝えるために。

証言と遺言

証言と遺言

2012年に公開された長谷川三郎監督によるドキュメンタリー映画『ニッポンの嘘〜報道写真家 福島菊次郎90歳〜』

2013/09/14 「これから、戦前の時代がやってきます」――。92歳の反骨の報道カメラマン、日本政府は戦争に向けて準備をしていると、警鐘を鳴らす〜福島菊次郎「遺言」最終章〜講演会〜