(筆洗)その人はどうしようもなくて牛を餓死させてきた - (2015年12月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015122502000139.html
http://megalodon.jp/2015-1225-1018-43/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015122502000139.html

その人はどうしようもなくて
牛を餓死させてきた
と 言った。
可哀想なことをしたが
仕方がない
とも言った。
そして一枚の写真を取り出して見せた。
それは牛が柱を食った写真だった

そんな詩を、詩人で出版社コールサック社代表の鈴木比佐雄さんの新著『福島・東北の詩的想像力』で知った。福島原発事故で故郷の町を奪われ、避難生活を強いられる根本昌幸さんの「柱を食う」である。
詩は続く。

この写真は自分を戒めるために
離さずに持っているのだ
とも言った
これはどういうことなのだ。
牛よ
恨め恨め
憎き者を恨め
お前を飼っていた者ではない。
こういうふうにした者たちを

その写真の持ち主はいま、どんな思いで原発再稼働の報を聞いていようか。九州電力の川内(せんだい)原発に続いて、関西電力の高浜原発も再び動く見通しとなった。
福井県知事は、「政府が責任を持つ」との首相の発言を重くとらえて再稼働に同意したそうだが、本当の「責任」の重さはいかほどのものか。
『福島・東北の詩的想像力』で、こういう詩も知った。福島県いわき市の芳賀稔幸さんの「もう止まらなくなった原発」だ。

失ったものは永遠に帰っては来ない
元通りに出来ないはずだのに
責任をはたすって?
何の責任をだ
一体責任って何だ?

この「?」に首相らは、どう答えうるのか。

根本昌幸詩集『荒野に立ちて ―わが浪江町
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