(筆洗)原発事故で福島県から避難してきた子どもに対するいじめ - 東京新聞(2016年12月14日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016121402000132.html
http://megalodon.jp/2016-1214-0926-09/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016121402000132.html

悲しみの涙を止める方法があるという。黒柳徹子さんが書いている。若いときに、ある女優さんに教えてもらったそうだ。「どうしても、涙が出て困るときは、舌の先を、少し、歯でかんでごらんなさい。これは、本当に、不思議に止まるのよ」
ある記事を読んで、さっきから舌をかみ続けている。涙は止まる。それでも無理にせき止めているせいか、胸のもやもやはむしろ濃くなる気がする。また、原発事故で福島県から避難してきた子どもに対するいじめである。
「福島さん」。その生徒はそう呼ばれ、コンビニでドーナツやジュースをおごらされていた。「避難者だとばらすよ」
一部で報道されていた、生徒のかばんに詰めこまれていたゴミの写真を見る。もっと舌をかまねばなるまい。お菓子の空き箱や空のペットボトルのゴミはナイフや拳よりも硬く、冷たく、尖(とが)って見える。その「凶器」で生徒の心を傷つけた。
避難者へのいじめに関する報道が相次いでいるとはいえ、なお氷山の一角にすぎないだろう。がまんし、こらえている子どもがいる。
お願いがある。あの涙を止める方法を使わないでほしい。もし誰かにいじめられているのなら、がまんしないで大粒の涙を流し、大声で「痛い」と叫んでほしいのである。そうまでしなければ、情けないことに、この国の学校も大人も、その痛みに気づかないようなのだ。