余録:「アベノミクス」のように政治指導者の…  - 毎日新聞(2015年7月16日)

http://mainichi.jp/opinion/news/20150716k0000m070151000c.html
http://megalodon.jp/2015-0716-0950-07/mainichi.jp/opinion/news/20150716k0000m070151000c.html

アベノミクス」のように政治指導者の経済政策を「〜ミクス」というのはレーガン米大統領の「レーガノミクス」が最初だろう。その「減税により税収を増やす」という驚くべき理論をからかってブードゥー(呪術)経済学とも呼ばれた。
レーガノミクスの評価には論議があろうが、歴史的には1980年代保守革命をリードし、冷戦を終結に導いたレーガン大統領だった。「〜ミクス」を継承する安倍晋三(あべ・しんぞう)首相にとっても見習いたい保守政治家の一人だろう。
そのレーガン氏は平明な語り口とたとえで反対派の国民も魅了するグレートコミュニケーターとたたえられた。ある演説はいう。「今夜は私を信用しろといいたくて時間をいただいたのではありません。あなたは自分を信用してほしい。それが本来のアメリカです」
さてこちらは「私を信用しろ」ということか。きのうの衆院特別委での安保関連法案の採決に先立ち、安倍首相は「残念ながらまだ(法案への)国民の理解が進んでいる状況ではない」と答えた。なのに成立を急ぐのは「確固たる信念と確信」にもとづく行動らしい。
採決の強行も、審議するほど理解どころか内閣支持率低下を招いたからに違いない。そもそも憲法解釈を一方的に変更し、安保法制を一気に全面更新する手法が広く理解されるとも思えない。はなから国民の理解など無用といわんばかりの「信念と確信」が不気味だ。
「頭はさほどでないが、常識はたっぷり」というのがレーガン氏の偉大な話し手だったゆえんという。まだ時間はある。首相も安保法案に納得できない国民の「常識」とまともに対話すべきである。