(余録)「横紙破り」は今では半ば死語だろう… - 毎日新聞(2015年7月15日)

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「横紙破(よこがみやぶ)り」は今では半ば死語(しご)だろう。紙の縦横といわれても用紙の向きしか思い浮かばない。だが伝統的な和紙は漉(す)き目が縦に通り、それに沿って裂けば破れやすいが、横には破れにくかった。
和紙の漉き目は簀(す)を動かしながら漉く日本独特の流し漉きの技法から生まれる。その手漉き和紙が昨年、無形文化遺産に登録されたのはご存じの通りで、おかげで「横紙」も完全に死語になるのは免れそうだ。いい忘れたが、横紙破りとは無理を押し通すことをいう。
さて、こちらは世論の漉き目を横から破ろうというのだろうか。政府・与党による安保関連法案の衆院特別委での採決の動きである。審議はもう100時間を超え、議論は尽くされたというが、審議を重ねるほど各種世論調査の法案反対が強まるのはどうしたことか。
いや反対が賛成を大きく上回っているだけではない。国民への説明が不十分との声が8割前後に達している。議会と世論の動向が必ずしも一致しないのは代議制の妙(みょう)味(み)だが、こと合憲性が問われる法案でこれほどの落差が生じれば代表民主制の機能不全といっていい。
長年の憲法解釈を政府自らが変更する裏技(うらわざ)で魔法の筆を手にし、自国防衛から国際貢献に及ぶ広範な法制を一気に塗り替えようという安倍(あべ)政権である。はなから国民の理解を得ようという手法とも思えないし、審議が進むほどに国民の疑問がふくらむのは当然である。
「横紙」の最古の用例は「平家物語」で平清盛(たいらのきよもり)の強引な横紙破りをいさめてきた嫡(ちゃく)男(なん)の重盛(しげもり)が死ぬ場面という。おごる平家の滅亡を暗示するくだりだが、今日の与党には一人の重盛もいないのか。