国旗国歌の要請 大学の判断に任せては - 毎日新聞(2015年4月11日)

http://mainichi.jp/opinion/news/20150411k0000m070154000c.html
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卒業式や入学式で日の丸掲揚、君が代斉唱をしない国立大学に対し、文部科学省は「適切な対応」を要請するという。
だが、要請が大学にとっては圧力と転じ、ひいては自由な教育・研究の土台である「大学の自治」に影を投じかねない。
発端は9日の参院予算委員会。次世代の党の松沢成文氏が「国立大の入学式、卒業式に国旗・国歌があるのはむしろ当然の姿」などと述べ、安倍晋三首相に感想を問うた。
首相は「今委員がおっしゃったように、税金によって賄われているということに鑑みれば、いわば新教育基本法の方針にのっとって正しく実施されるべきではないか」と答えた。下村博文文科相は「各大学で適切な対応がとられるよう要請してまいりたい」とした。
小中高校の具体的な教育指針である学習指導要領では、掲揚・斉唱が定まっているが、大学には指導要領はなく、規定もない。
大学は教育・研究内容だけでなく、学内の運営全般にわたって「自治」が大原則であり、自主的な決定に委ねられる。それが根本的理念である「学問の自由」の支えでもある。
「税金で賄われている」から掲揚・斉唱すべきだという観点にも疑問がある。
国立大は、政府の一律的な見解や制度に服すための機関ではない。何の分野にせよ、税金が使われているのだから従うべきだという発想は、状況を息苦しいものにし、活気ある自主性を損ねかねない。
日の丸、君が代は多くの国民に親しまれている。だが、国民が押しつけを是としているわけではない。
文科相は10日の記者会見で、大学への要請について「権限によるのではなく、お願い」とし、これに応じるかどうかは、あくまで「各大学の判断」と説明した。
しかし、どの世界であれ、所管官庁の要請はしばしば圧力に転化する。例えば、厳しい財政下、文科省は国立大改革と競争力強化の一環として、積極的に取り組む大学へ運営費交付金を重点配分するなどの方針を打ち出している。
むろんそれと国旗国歌問題とは無関係のはずだが、こうした状況の中で出される要請は大学にとって、負荷になりはしないか。
国民の間にある日の丸・君が代への親しみにもそれはそぐうまい。
もし、意に沿わないながらも「要請」を受け入れた場合、次の要請も続く可能性はある。
判断や決定は大学の自主性に委ね、「要請」は見送るべきだ。
場合によっては、国立大側の腰を据えた意思表明も必要だろう。