志布志事件 “暴走捜査”への戒めだ - 東京新聞(2015年5月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015051902000173.html
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いわゆる「志布志事件」で警察や検察の捜査に違法があったとして鹿児島地裁は国と県に賠償を命じた。冤罪(えんざい)事件を生んだ“暴走捜査”への厳しい戒めとして、再発防止に尽くさねばならない。
この冤罪事件の舞台は、二〇〇三年の鹿児島県議選だ。元県議が妻らと共謀して、県内の志布志市で投票依頼のための会合を開き買収したとして、鹿児島県警が十五人を公職選挙法違反の容疑で逮捕した。そのうち鹿児島地検が十三人を起訴したものの、一人は公判中に死亡し、残りの十二人全員に鹿児島地裁が〇七年に無罪判決を出した。検察は控訴をせず、無罪が確定した事件だ。
違法捜査の典型例が「踏み字」に表れている。元県議の支援者だったホテル経営者を任意で取り調べようとしたが、供述を拒まれた。そのため、捜査員はその人の父や孫の名前とともに「おまえをこんな人間に育てた覚えはない」「早く正直なじいちゃんになってください」などと紙に書き、足をつかんで踏ませたのだ。
逮捕された元県議も保釈までの勾留期間が三百九十五日もあった。自白しない限り身柄を拘束し続ける「人質司法」と呼ばれる問題である。朝八時から夜九時まで、取調官に机をたたかれ、「認めないと息子も逮捕する」と怒鳴られたという。脅迫ではないか。
また、否認を続けたが取調官に「妻が自白した。認めれば妻を釈放する」と言われたため、やってもいないのに“自白”した。だが、妻の自白は虚偽だったことが後に判明した。これは「切り違え尋問」と呼ばれる違法な手段だ。
別の容疑者は、任意捜査の段階から体調不良を訴えても帰宅できず、衰弱し簡易ベッドに横になった状態で聴取を受けた。鹿児島地裁は明確に「自由な意思を阻害し、社会通念上許されない」と断じた。この事件では弁護士との接見内容まで検察や警察が介入した。それどころか「弁護士はあなたのためにならない」などの趣旨を告げ、弁護士解任の事態も相次いだ。あまりに不当である。
判決では検察にも「全員が否認に転じ、有罪判決が期待できなくなっていた時点での起訴は行き過ぎ」と指摘した。重く受け止めるべきである。
この事件の教訓は、どんな事件でも任意段階から取り調べの可視化が必要なことを示している。「人質司法」も早急に解消せねばならない。課題がいくつも露見している。