田英夫さんなら…:私説・論説室から - 東京新聞(2015年5月13日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2015051302000141.html
http://megalodon.jp/2015-0513-0939-42/www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2015051302000141.html

テレビ朝日の放送内容をめぐり、政権側が放送法に言及したり、事情聴取するという話を聞き、政界引退直前の二〇〇七年、インタビューした故・田英夫さんを思い出した。
田氏は共同通信記者からTBSテレビ「ニュースコープ」の初代キャスターに転身。現地からのベトナム戦争報道を偏向だと批判した政府・自民党幹部の圧力で「解任」され、参院議員に転じた経緯がある。
当初、田氏を擁護していた経営者も、政権幹部が放送再免許を与えない可能性に言及した途端、態度が変わったという。権力の意に反する報道内容に対し、放送法への言及や事情聴取の形で圧力をかける手口は、田氏解任から五十年近くがたっても変わらない。
放送法は、番組は法律の権限に基づく場合を除き、誰からも干渉され、規律されないと定める。それは大本営発表を垂れ流し、真実を伝えなかった戦前・戦中の反省でもある。
政権の圧力に萎縮せず、はね返す気概を持てと、田氏が存命なら言うであろう。
特攻隊員だった田氏は憲法九条の大切さも説き、改憲の動きにも警鐘を鳴らしていた。
脳内出血を患い手足に障害が残っていた田氏はインタビューの終わり際、左手で自著にサインしてくれた。あれから八年。自衛隊の海外派遣拡大や改憲の動きも加速する。乱れた「田英夫」の文字は、私たち後輩記者への叱咤(しった)激励に思えてならない。 (豊田洋一)