英児童文学作家ミルンの『クマのプーさん』。日本で戦時中の一…-東京新聞(2014年7月8日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2014070802000124.html
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英児童文学作家ミルンの『クマのプーさん』。日本で戦時中の1940(昭和15)年に翻訳本が出版された事情には「不思議」がある。
41年の日米開戦はまだ先だが、敵性国家の作品の出版は既に簡単ではなかった。「プーの本は、何かのまちがいのように出版許可が出て、紙の配給をうけてしまったものでした」。翻訳した石井桃子さんが「プーと私」(河出書房新社)の中でお書きになっている。
出版許可は本当に間違いによるものだったのか。厳しく目を光らせていた当時の内務省が間違いで許可するとは思えない。「プーさん」は敵性国家の作品である上に戦争中は「不要不急」の子ども向けの本である。
不思議の真相は分からないが、世を憂えた内務省の誰かが「プーさん」を世に送り出すことに目をつぶったのではないか。突拍子もない空想ではないだろう。
さいたま市の公民館が、ある俳句の月報への掲載を断ったという。<梅雨空に『九条守れ』の女性デモ>という句。公民館側は「世論が二つに割れる問題で一方の意見だけは載せられない」と説明する。
プーさんにも笑われるか。表現の自由が蔑(ないがし)ろにされ、戦争中でもないのに句が、言葉が、閉じ込められていく現実。ばかげている。<扇風機まだ首振っている戦後>。高野ムツオさんの『萬(まん)の翅(はね)』にあった。たぶん、公民館の月報には載せてもらえない。