ユダヤ人収容所の子どもが描いた絵 熊谷で27年ぶり展示;埼玉 - 東京新聞(2018年5月26日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/list/201805/CK2018052602000161.html
https://megalodon.jp/2018-0526-1031-55/www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/list/201805/CK2018052602000161.html

10歳の女の子が楽しかった遊園地の思い出を描いた絵=野村路子さん提供

第二次世界大戦中、ナチス・ドイツユダヤ強制収容所に残された子どもたちの絵を集めた「テレジン収容所の幼い画家たち展」が六月七日から、熊谷市八木橋百貨店八階カトレアホールで開かれる。同展は川越市在住のノンフィクション作家・野村路子さん(81)が一九九一〜九二年、八木橋百貨店を皮切りに全国二十三カ所で巡回展を開催し、大きな反響を呼んだ。二十七年ぶりに出発の地での開催となる。野村さんは「当時、絵を見た子どもたちが親になって来てくれたら」と話している。 (中里宏)
展示する絵は、チェコ北部のテレジン収容所に収容された子どもたちが、親と引き離され、飢えに苦しむ中で描いた。遊園地など楽しい思い出を描いたものや花の間を自由に飛び回るチョウに思いを託した絵がある一方、飢えの中で食べ物を描いたり、ナチスに処刑されたユダヤ人を描いたりした絵もある。
生存者の取材を続け、多くの本を出版している野村さんによると、テレジンに収容された十四万人以上のユダヤ人のうち、子どもは約一万五千人。餓死や処刑者の出る極限状況の中で、大人たちは監視の目を盗んで、捨てられた包装紙や書類などを集め、子どもたちに希望を持たせようと絵を描かせた。
教えたのは女性画家のフリードル・ディッカー。「あなたたちには名前がある。ドイツ兵が番号で呼ぼうと、お父さんとお母さんが愛情込めた名前を書きましょう」「あしたはきっといい日になるわ」と子どもたちを励まし続けたという。
多くのユダヤ人はここからアウシュビッツなどの絶滅収容所に移送され、生き残った子どもは百人。フリードル先生も犠牲になった。ドイツ敗戦後、テレジン収容所跡から、四千枚もの名前の書かれた絵が見つかった。
野村さんは一九八九年、旅行で訪れたプラハシナゴーグユダヤ教の会堂)で偶然、子どもたちの絵に出会った。「この絵を中高生の自殺が問題化している日本で見せたい」と国立ユダヤ博物館にかけ合い、絵の写真を持ち帰った。
九一年四月、八木橋百貨店で開いた展覧会の初日、受け付けに追われる野村さんに四、五歳の男の子が歩み寄り「ぼくのおやつあげる」と何度も言ってきた。男の子が見たのは豚にフォークが刺さった絵。「描いた子はおなかがすいていたのねと言ったんです」とそばにいた母親は泣き出したという。「絵の持つ意味は今も、ちっとも古くなっていない」と野村さんは言う。
展示は絵の写真パネルと写真資料など約百六十点。十二日まで。九日と十日の午後には、テレジンの子どもたちが残した詩の朗読やミニコンサートなどが開かれる。入場無料。

米朝会談中止 対話の努力を続けよ - 東京新聞(2018年5月26日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018052602000172.html
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驚きと失望が広がっている。トランプ米大統領が、北朝鮮との首脳会談の中止を発表したためだ。それでも両国の長い対立関係を解消するには首脳会談しかない。対話の機運を維持すべきだ。
米国側は、中止の理由を「一連の約束違反」と説明した。
北朝鮮側の行動には問題があった。いったん認めた米韓合同軍事演習に反発、米政権幹部を批判する高官談話も発表した。事前協議にも応じなかったという。
この間、金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長は二回目の訪中を行い、貿易問題を巡り、米国と対立する中国の支援を取り付けていた。刺激の度が過ぎたようだ。
しかし、そもそもこの会談は、韓国の仲介を受けてトランプ氏が即断で応じたものだ。
会談実現に向け北朝鮮側は、米国人三人の解放に応じた。北東部にある核実験場を爆破し、非核化に応じるような姿勢を見せた。
二十二日にトランプ氏は、訪米した韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領と、米朝会談を前提にした調整を行ったばかりだった。
まだ首脳会談まで二週間以上ある段階で、突如中止を宣言し、必要なら軍事的対応を辞さない姿勢まで示すのは、大国の指導者としてふさわしい行動だろうか。トランプ氏一流の駆け引きだとしてもだ。
中止は残念だが、決裂ではない。希望はもちろん残っている。
たとえば金桂冠(キムゲグァン)・第一外務次官が発表した談話の中で、首脳会談の必要性を訴え、米国に対して再考を求めたことだ。北朝鮮にしては実にソフトな対応だった。
また、以前、トランプ氏の発言に直接強く反発した金委員長は、今回批判を控えている。
北朝鮮との関係改善を進める韓国も、康京和(カンギョンファ)外相が米国の対話継続に向けた意思を確認するなど動いており、期待したい。
はっきりしてきたのは、米朝両国の食い違いだ。
非核化を実現するまでの時間、方法について「一括、もしくは短期間」を求める米国と、「段階的」を主張する北朝鮮の間で、鋭く対立が残っている。
これについてもトランプ氏自身が最近、段階的な非核化を容認するような発言をしており、調整は可能だ。もちろん北朝鮮も歩み寄らねばならないだろう。
何よりも重要なことは、完全な非核化の実現であり、緊張を高めないことだ。冷静な対話を、一日も早く再開してほしい。

米朝首脳会談の中止発表 回り道でも仕切り直しを - 毎日新聞(2018年5月26日)

https://mainichi.jp/articles/20180526/ddm/005/070/023000c
http://archive.today/2018.05.25-224334/http://mainichi.jp/articles/20180526/ddm/005/070/023000c

決裂したと言うより意義深い会談への仕切り直しと考えたい。東アジアの現在と将来を思えば、武力衝突含みの険しい対立関係に逆戻りするのは得策ではあるまい。
来月12日に予定されていた北朝鮮との首脳会談について米国が中止を発表した。トランプ大統領金正恩朝鮮労働党委員長への書簡で、北朝鮮側の最近の対米批判などを挙げ、首脳会談を行う環境としては「不適切」だと表明した。
トランプ氏は、金委員長の気が変わったら連絡してほしいと述べる一方、米国の巨大な核戦力を使わないで済むよう望むとして、核による北朝鮮攻撃も辞さない構えを見せた。
折衝の成果を生かせ
これに対し北朝鮮側は会談中止を遺憾としながら、前例のない首脳会談を受諾したこと自体はトランプ氏の「勇断」だと評価した。数日前、ペンス副大統領の発言に怒って核戦争にも言及した同国としては極めて異例で、ソフトな対応だ。
北朝鮮の対応を好感したのかトランプ氏は記者団に、予定通りの開催の可能性はまだあると語った。双方とも対話を拒んでいないのに史上初の首脳会談の計画を捨てるのは惜しい。折衝の成果を踏まえ、首脳会談の開催を改めて模索すべきだろう。
首脳会談には議題・論点の十分な整理が不可欠である。北朝鮮のように核開発が進んだ国の非核化は人類初の試みと言っても過言ではないし、非核化の行方は朝鮮半島の南北融和や朝鮮戦争終結にも大きな影響を与える。
見切り発車で「会談のための会談」にするより、多少回り道でも有意義な首脳会談にすべきである。
議題や論点の詳細は明らかになっていないが、北朝鮮非核化の具体的な手順や方法と同国の体制維持が争点になっているのは確かだろう。
米国は核について「完全かつ検証可能で不可逆的な解体」(CVID)を鉄則として、一気に、または極めて短期間での非核化を目指す。
北朝鮮は段階的な非核化に重点を置き、段階ごとに制裁解除や経済援助などの見返りを求める構えだ。
2003年に核放棄を宣言したリビアは、作業完了後に見返りが与えられた。ボルトン大統領補佐官らはこの「リビア方式」を主張してきたが、リビアの最高指導者カダフィ大佐は11年の内戦で、米英などが支援する反政府派に殺されている。
体制維持が最優先の北朝鮮が「リビア方式」に反発するのはこのためだが、トランプ氏は同方式とは一線を画し、段階的な核廃棄にも一定の理解を示すなど、北朝鮮に柔軟なシグナルを送ってきた。
それでも核廃棄をめぐる意見の相違は埋めがたかったのだろう。秋の中間選挙に向けて成果がほしいトランプ氏が会談中止を発表したのは米・北朝鮮の深刻な対立を物語る。
非核化の意思を明確に
他方、北朝鮮も3人の米国人を解放し、核実験場の閉鎖を公開するなど柔軟姿勢を見せた。実験場閉鎖に核専門家らを招かなかったのは核実験の実態をごまかすためだとの批判もあるが、北朝鮮と国際社会の緊張緩和は前向きにとらえるべきだ。
4月の南北首脳会談や北朝鮮と中国の関係改善も新時代への期待を膨らませた。問題は、国連の経済制裁や米国の軍事的圧力の下で孤立していた北朝鮮が米中韓との緊張緩和によって孤立を脱し非核化の意思を鈍らせなかったかどうか、である。
特に中国との関係改善で北朝鮮の対米姿勢が微妙に変わったと、トランプ政権は見ている。ここは中韓も考えどころだ。非核化を前提にした北朝鮮との融和なのに、関係改善をいいことに北朝鮮が非核化を曖昧にする恐れもあるからだ。
日本政府はトランプ氏の決断に理解を示し、北朝鮮の政策を変えさせるために圧力をかけ続けると表明した。北朝鮮の脅威を直接的に受ける日本にとって、同国の核・ミサイルの除去は最優先の課題であり、米国と連携して北朝鮮の非核化の意思を慎重に見定める必要がある。
逆に言えば、北朝鮮は核放棄の意思をもっと具体的に示してほしい。十数発持つとされる核爆弾を自ら廃棄するのも一つの方法だろう。首脳会談中止への「報復」として強硬姿勢に転じ、核・ミサイル開発を再び活発化させるようでは論外だ。
核と決別し中韓や日米の支援のもとで経済発展に努める。そんな姿勢を明確にすれば、おのずと米朝首脳会談への道も開けよう。

<金口木舌>権力者を支える自発的隷従 - 琉球新報(2018年5月26日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-726264.html
http://archive.today/2018.05.26-013534/https://ryukyushimpo.jp/column/entry-726264.html

アメリカンフットボールの反則問題で当事者が会見した。関西学院大クオーターバック(QB)を負傷させた日大の選手が内田正人前監督とコーチの指示があったと明言した

▼「相手のQBを1プレー目でつぶせば(試合に)出してやる」との指示に従い、卑劣な行為に走ってしまった。事実なら、監督は試合に出たいと切望する選手を利用したことになる
▼出場選手を決める権限のある内田氏は、反則行為の指示を否定したが「試合で行っていることは私の責任だ」と監督を辞した。一方、不正の責任を認めながら、権力の座に居座る人もいる
安倍晋三首相は森友学園に関する決裁文書の書き換えについて「最終的な責任は私にある」と陳謝した。財務省理財局長だった佐川宣寿氏は証人喚問で訴追の恐れがあることを理由に証言を拒否したため、真相解明には至っていない
▼フランスの人文主義者、エティエンヌ・ド・ラ・ボエシは著書「自発的隷従論」で「圧制者が人々を害することができるのは、皆がそれを好んで耐え忍んでいるからだ」と指摘した。権力者の意図を酌み、隷従することが彼らを助長させる
▼日大の選手は「事実を明らかにすることが償いの第一歩」と述べた。権力にとって都合の悪い事実をつまびらかにするのは勇気のいることだ。
民主国家の奉仕者である官僚に、学生の勇気はどう映っただろうか。

日大、スキャンダルまみれの田中理事長=内田独裁経営…暴力団交際疑惑、リベート問題 - Business Journal(2018年5月25日)

http://biz-journal.jp/2018/05/post_23468.html

日本大学アメリカンフットボール部の内田正人前監督と井上奨コーチが23日、記者会見を行った。関西学院大学のQB選手にタックルで負傷させる指示はしていないと話した。前日に会見した宮川泰介選手は、監督とコーチからの指示に従い思い悩んだ末に反則行為に及んだと告白したが、2人はこれを否定した格好だ。
23日の会見では、司会を務めた広報部職員が会見を強引に打ち切ろうとしたことから記者と言い合いになるなど、広報部の対応のまずさは事件直後から批判されていた。日大を取材してきたジャーナリストの伊藤博敏氏は次のように語る。
「内田氏は田中英壽理事長の側近であり、2人は“謝ることができない”のだろう。田中体制は業者とのリベート問題、山口組組長や住吉会会長との交際写真流出など、この数年間スキャンダルまみれだったが、右腕として支えてきたのが内田氏だ。また、田中理事長の公私の“私”の部分で支えてきたのが、内田氏の2年後輩で株式会社日本大学事業部を仕切る人物(日大理事)だ。アメフト部が田中理事長を支えているといっても過言ではない。
内田氏が自分の指示だと謝れば、田中理事長に責任が及ぶかもしれないし、田中理事長が『大丈夫だから突っぱねろ』と指示したと聞いている。だから、内田氏は『責任は自分にある』と言いつつも、その責任の内容は言えないし、対応が後手後手に回っている。広報部も上を忖度しているから、ああいう態度になる」
田中理事長は2012年までの約6年間に、日大の工事を受注している建設会社から合計で500万円以上を受け取っていると読売新聞ほかで報じられている。写真流出というのは、山口組6代目の司忍組長とのツーショット写真が14年9月に米メディアで掲載された一件だ。
日本大学事業部は2010年に設立され、保険代理業、人材サービス、キャンパス整備、学生生活支援などを事業として行っているが、不明朗な金の流れがあるとの疑いで、14年8月には東京国税局の係官が査察に入ったこともある。
「1960年代からずっと続く日大内部の闘争・紛争のなかで、ウラ金をつくったり、懐柔したりという工作が行われてきた。田中氏は、そういう風土のなかで勝ち上がり、理事長にまで上り詰めた。その後、4期12年の長期政権を敷き、自分と似た人間をナンバー2に就けたということだ。もっとも権力を持っているのは保健体育審議会の事務局長だが、そこが体育会スポーツ部すべてを所管している。事務局長が予算と人事権を握っている。それは学部長とは比べものにはならない権力だ。そこと人事部を与えられているわけだから、まさに内田氏がナンバー2だといえる」

大学スポーツも人格形成など教育の一環だ
教育ジャーナリストの木村誠氏は、教育機関としての日大のあり方に疑問を感じるという。
「大学のスポーツといえども、人格形成を行うなど教育の一環だ。大学教育の本来あるべき姿という視点からも、アメフト部の運営方針は正しいのかどうか問いただす必要がある。学生の自主性を尊重するようでなければ、本当の教育にはならないのではないか。試合に勝つことばかり考えていては教育の本分から外れる」
大学の体育会系というのは“日本社会の縮図”みたいな部分もあり、ある種の社会的ニーズに応えてきた。
「そもそも、日本社会や企業においても、上の言うことは絶対という風潮が色濃く残っていた。官僚の世界だってそうだ。日大だけではなく他の大学の体育会系スポーツ部にも、まだまだそういう部分がある」
なお、木村氏は次のように宮川選手の今後を案じる。
「彼は大学側の反対を押し切って記者会見を開いただけに、学部にはいづらくなるのではないか。彼への処遇が注目される」
日大の教職員組合が理事長や学長に人事一新などを求める声明文を発表したが、木村氏はこれを「一歩前進」と評価した。そして、日大アメフト部の現役選手たちが、近日中に声明を出す予定であるという。文部科学省も日大への補助金のあり方を検討すべきではないのか。
(文=横山渉/ジャーナリスト)

なぜ日大は凋落したのか…体育会系が経営牛耳り、田中理事長は山口組と交際疑惑 - Business Journal(2018年5月25日)

http://biz-journal.jp/2018/05/post_23470.html

23日、日本大学アメリカンフットボール部の内田正人前監督と井上奨コーチが緊急記者会見を開き、内田氏は日大常務理事の職を一時停止し、井上氏はコーチを辞任することを発表した。会見では司会を務めた日大企画広報部の米倉久邦氏が、記者の質問中にも「もういいでしょう」「早く次に回してください」と口にするなど、その傲慢な態度も注目を集めた。記者が、「このままだと日大のブランドは落ちますよ」と米倉氏に投げかけると、憤然として「落ちません」と司会者が回答するなど異例な会見となった。しかし、「日大ブランドはすでに落ちている」と指摘するのが、大学業界を取材するジャーナリストの島野清志氏だ。島野氏に日大の内実を聞いた。

――日大の特徴は?
島野清志氏(以下、島野)文理学部芸術学部、医学部など幅広く学部を揃え、日本最大規模の総合大学です。附属高校・中学校もあり安定性は高く、補助金に対する依存度は7.5%と低く、経営は自立しています。ちなみに、早稲田大学慶應義塾大学補助金依存度は10%程度です。そのため、日大の運営の独立性は高く、23日の記者会見で広報部の態度が悪かったのも自負心によるものでしょう。“大学冬の時代”にあっても「日大は安全圏にいる」という意識が見え隠れしています。
――日大の経営は体育会系が牛耳っているとの報道もあります。
島野 もともと内部では体育会系が強く、現在の田中英壽理事長は相撲部出身、内田氏はアメフト部出身です。日大芸術学部は応援団が支配してきましたが、学生運動後に反動で保守派が盛り返してきた影響によるものです。かつての国士舘大学拓殖大学のような保守的な大学の系統に属しているというイメージです。
――保守的な大学だからこそ、内田氏が台頭する素地があったと?
島野 そう思います。しかし、最近の日大は系列高校も含めてスポーツがパッとしません。野球の東都リーグで日大は強いイメージがありますが、今は2部リーグですからね。高校野球でも日大一高、日大二高、日大三高日大豊山は、以前ほどの強豪校ではなくなりました。日大相撲部も名門ですが、かつてほどの勢いは見られません。箱根駅伝でも昔は常連でしたが、今年は本選出場を逃し、“古豪”といわれています。
大企業病に侵されて停滞
――スポーツ系が弱くなるなかで、学問系はいかがですか。
島野 同じく弱くなっています。日大は法科が売り物ですが、日大法科大学院は司法試験合格率が低い。中央大、明治大、法政大、日大の法科大学院は生き残れるといわれていましたが、それも怪しくなってきています。そもそも日大の法科には120年の歴史があり、「司法の日大」といわれて司法試験には強かったのですが、それも厳しくなりました。公認会計士試験でも、合格者数は専修大学に抜かれています。日大の良さは資格取得に強いだけではなく、公務員試験にも強い実績を持っており、支援システムもしっかりしていましたが、実績を見ると下落しています。
――日大がスポーツでも学問でも衰退した理由はなんでしょう。
島野 日大より格上の大学がAO試験やスポーツ枠を拡大し、優秀な生徒を囲い込む動きが強まったからでしょう。大学は高校生の青田刈りをやっていて、早稲田大も2003年にスポーツ科学部を新設し、スポーツ選手の受け皿をつくりました。今はスポーツを売りにすると宣伝になると気がついたのでしょう。
それに対して、日大は何もしていないのです。たとえば東海大学は、学生が集まらない学部学科はリストラしますし、上位大学は新設する学部学科が増えています。上智大学は看護系の大学を買収して看護学科を新設しました。日大についてそうした動きは聞こえてこず、大企業病に侵されて停滞しているというのが大学業界での評価です。
――会見で記者が「日大ブランドが落ちますよ」と指摘し、広報担当者が反論する場面がありました。
島野 いや、もう落ちているんですよ。日大が学生の囲い込みを行なっているとも聞きませんし、斜陽のイメージがあり、魅力がなくなっていますね。学生はそのあたりよく見ています。建設業界の役員には日大理工学部出身が多いのですが、ITなどの新興系業種の社長や役員のデータを調査してみると、日大出身者は少ない。少なくても学問については、ブランド力が確実に落ちています。
――内田常務理事は一時停職すると発表しましたが、復帰する可能性は?
島野 大いにありますね。私は復帰するとみています。本人はまだやる気ですね。日大の体育会系は団結が強いですから、田中理事長も内田氏を守るでしょう。
日大幹部の驕り
――14年、複数の海外メディアによって、田中理事長と山口組組長の交際がツーショット写真と共に報じられました。
島野 大学と暴力団は対極にある世界であり、ほかの大学ではあり得ません。
――田中理事長体制の特性上、日大内部から声をあげることが難しいようです。
島野 「経営が危ないなど、あり得ない」「いざとなれば学生を付属校から集めればいい」という安心感が蔓延しており、異論が出ない体制になっています。そもそも、暴力団と交際していると報じられる田中理事長に、内部では誰も逆らえません。日大にも良識的な先生もいますが、何も言えない環境になっています。それに職員の待遇は悪くないですから、あえて火中の栗を拾いたくないのでしょう。
――これから日大はどうなりますか。
島野 人気のある芸術系、医学系、理工学部系の受験者が多いですから、難易度が下がるという程度の影響が出るかもしれません。日大幹部には「うちは多少のことがあっても大丈夫」という驕りがある。存続をかけて国士舘大学拓殖大学もクリーンなイメージにチェンジし、留学生も多数受け入れていますが、日大は昭和で時代が止まっています。巨大組織ゆえに、今後さらに問題点が噴出し、ブランドが毀損していく恐れがあります。
(構成=長井雄一朗/ライター)