米朝首脳会談の中止発表 回り道でも仕切り直しを - 毎日新聞(2018年5月26日)

https://mainichi.jp/articles/20180526/ddm/005/070/023000c
http://archive.today/2018.05.25-224334/http://mainichi.jp/articles/20180526/ddm/005/070/023000c

決裂したと言うより意義深い会談への仕切り直しと考えたい。東アジアの現在と将来を思えば、武力衝突含みの険しい対立関係に逆戻りするのは得策ではあるまい。
来月12日に予定されていた北朝鮮との首脳会談について米国が中止を発表した。トランプ大統領金正恩朝鮮労働党委員長への書簡で、北朝鮮側の最近の対米批判などを挙げ、首脳会談を行う環境としては「不適切」だと表明した。
トランプ氏は、金委員長の気が変わったら連絡してほしいと述べる一方、米国の巨大な核戦力を使わないで済むよう望むとして、核による北朝鮮攻撃も辞さない構えを見せた。
折衝の成果を生かせ
これに対し北朝鮮側は会談中止を遺憾としながら、前例のない首脳会談を受諾したこと自体はトランプ氏の「勇断」だと評価した。数日前、ペンス副大統領の発言に怒って核戦争にも言及した同国としては極めて異例で、ソフトな対応だ。
北朝鮮の対応を好感したのかトランプ氏は記者団に、予定通りの開催の可能性はまだあると語った。双方とも対話を拒んでいないのに史上初の首脳会談の計画を捨てるのは惜しい。折衝の成果を踏まえ、首脳会談の開催を改めて模索すべきだろう。
首脳会談には議題・論点の十分な整理が不可欠である。北朝鮮のように核開発が進んだ国の非核化は人類初の試みと言っても過言ではないし、非核化の行方は朝鮮半島の南北融和や朝鮮戦争終結にも大きな影響を与える。
見切り発車で「会談のための会談」にするより、多少回り道でも有意義な首脳会談にすべきである。
議題や論点の詳細は明らかになっていないが、北朝鮮非核化の具体的な手順や方法と同国の体制維持が争点になっているのは確かだろう。
米国は核について「完全かつ検証可能で不可逆的な解体」(CVID)を鉄則として、一気に、または極めて短期間での非核化を目指す。
北朝鮮は段階的な非核化に重点を置き、段階ごとに制裁解除や経済援助などの見返りを求める構えだ。
2003年に核放棄を宣言したリビアは、作業完了後に見返りが与えられた。ボルトン大統領補佐官らはこの「リビア方式」を主張してきたが、リビアの最高指導者カダフィ大佐は11年の内戦で、米英などが支援する反政府派に殺されている。
体制維持が最優先の北朝鮮が「リビア方式」に反発するのはこのためだが、トランプ氏は同方式とは一線を画し、段階的な核廃棄にも一定の理解を示すなど、北朝鮮に柔軟なシグナルを送ってきた。
それでも核廃棄をめぐる意見の相違は埋めがたかったのだろう。秋の中間選挙に向けて成果がほしいトランプ氏が会談中止を発表したのは米・北朝鮮の深刻な対立を物語る。
非核化の意思を明確に
他方、北朝鮮も3人の米国人を解放し、核実験場の閉鎖を公開するなど柔軟姿勢を見せた。実験場閉鎖に核専門家らを招かなかったのは核実験の実態をごまかすためだとの批判もあるが、北朝鮮と国際社会の緊張緩和は前向きにとらえるべきだ。
4月の南北首脳会談や北朝鮮と中国の関係改善も新時代への期待を膨らませた。問題は、国連の経済制裁や米国の軍事的圧力の下で孤立していた北朝鮮が米中韓との緊張緩和によって孤立を脱し非核化の意思を鈍らせなかったかどうか、である。
特に中国との関係改善で北朝鮮の対米姿勢が微妙に変わったと、トランプ政権は見ている。ここは中韓も考えどころだ。非核化を前提にした北朝鮮との融和なのに、関係改善をいいことに北朝鮮が非核化を曖昧にする恐れもあるからだ。
日本政府はトランプ氏の決断に理解を示し、北朝鮮の政策を変えさせるために圧力をかけ続けると表明した。北朝鮮の脅威を直接的に受ける日本にとって、同国の核・ミサイルの除去は最優先の課題であり、米国と連携して北朝鮮の非核化の意思を慎重に見定める必要がある。
逆に言えば、北朝鮮は核放棄の意思をもっと具体的に示してほしい。十数発持つとされる核爆弾を自ら廃棄するのも一つの方法だろう。首脳会談中止への「報復」として強硬姿勢に転じ、核・ミサイル開発を再び活発化させるようでは論外だ。
核と決別し中韓や日米の支援のもとで経済発展に努める。そんな姿勢を明確にすれば、おのずと米朝首脳会談への道も開けよう。