皇室は安倍政権の憲法改正を止められるか(ビル・パウエルさん) - ニューズウィーク日本版(2016年8月16日)

http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/08/post-5661.php

生前退位そのものは、日本以外の国にとって大したニュースではない。しかし天皇のお言葉に憲法改正に突き進む安倍政権を牽制する「政治的」メッセージが含まれているとすれば、無視できない>

世界最古の世襲君主制である日本の皇室において、天皇は8月8日、ビデオメッセージを通じて生前退位の意向をにじませるお言葉を発表した。82歳という高齢と健康面の不安から、日本国憲法に定める象徴天皇としての務めを完璧に果たすことが困難になるかもしれないという。
生前退位そのものは、日本以外の国ではさほど注目に値するニュースではない。だが、天皇のメッセージには他の願いも込められている可能性がある。
第2次世界大戦後、天皇は政治的な権限を取り上げられた。日本を占領したGHQ連合国軍最高司令官総司令部)の草案をもとに制定された日本国憲法によるものだ。現天皇の父である昭和天皇は、戦前の憲法下ではいわゆる「現人神」とされ、日本軍国主義ならびに日本臣民の中心的存在だった。それが戦後日本国憲法が制定されると、世界が見守る中で、海洋生物学を趣味とする物静かで温和な1人の男性に生まれ変わった。
天皇は、政治に関与しない立場を貫いて、日本国民の大半から慕われている。天皇と同じように高齢化が進む日本社会では、天皇が将来的に退位を望んでいるとしても仕方のないことだととらえられている。ただし、現行法では生前退位に関する取り決めがない。安倍晋三首相は、天皇のビデオメッセージ公開を受けて次のようなコメントを発表した。「天皇陛下の御年齢や御公務の負担の現状にかんがみるとき、天皇陛下の御心労に思いを致し、どのようなことができるのか、しっかりと考えていかなければいけないと思っています」

天皇平和憲法を支持

天皇が56歳の皇太子に皇位を譲りたいという意向を示したこのタイミングは、日本にとっては微妙な時期だ。安倍は高い支持率を誇る保守派で、平和主義を掲げる日本国憲法を改正し、自衛隊により強い役割を担わせることに前向きである。与党を含む改憲勢力は現在、国会で圧倒的多数の議席を獲得している。安倍はおそらく、国民投票の実施に動くだろう。
日本の左派は、安倍首相の憲法改正への動きに大きな懸念を抱いている。多くは、安倍は中国の脅威を視野に日本の再軍備を狙う国粋主義者だと警戒している。
一方、現在の天皇は、即位してから約30年にわたって、日本の「平和憲法」を支持する姿勢をはっきりと打ち出してきた。数年前からは、第2次大戦における日本の役割についての遺憾の意も強調している。その内容は、昭和天皇や歴代首相らよりもさらに踏み込んだものだ。
2015年8月15日には、終戦70年を迎えた全国戦没者追悼式において次のように述べた。「ここに過去を顧み、さきの大戦に対する深い反省と共に、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い、全国民と共に、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、心からなる追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」
日本の皇室ウォッチャーの間では、安倍を始めとする保守派が目指す憲法改正に対し、天皇が反対の意思を示したものと解釈されている。
皇位継承者である皇太子も天皇と同様の考えであるとされる。皇太子は、55歳の誕生日を迎えた2015年2月に記者会見でこう述べた。「私自身、戦後生まれであり、戦争を体験しておりませんが、戦争の記憶が薄れようとしている今日、謙虚に過去を振り返るとともに、戦争を体験した世代から戦争を知らない世代に、悲惨な体験や日本がたどった歴史が正しく伝えられていくことが大切であると考えています」
この言葉もまた、改憲勢力を牽制したものであると受けとめられている。
安倍が憲法改正から手を引く可能性は低く、歴史的な論争へのお膳立ては整ったと言えよう。この論争は、日本国内においてきわめて大きな影響を持つ。論争の一方は政治的エシュタブリッシュメント、もう一方が、表向きは「非政治的」とされる皇室だからだ。

(政界地獄耳)この有様は戦前回帰の警察国家 - 日刊スポーツ(2016年8月15日)

http://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/1695244.html
http://megalodon.jp/2016-0816-1900-51/www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/1695244.html

大分県警別府署の野党事務所盗撮問題のニュースも冷めやらない中、12日、今度は神奈川県警青葉署が青葉区の県立高3校に「青葉区の18歳投票率が高いが、特別な取り組みをしたのか」と電話で問い合わせていたことが発覚した。県教委などによると、参院選後の7月15日、青葉署生活安全課の署員が3校に電話で問い合わせた。
★先の参院選挙から選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたことから青葉署は「18歳の投票率が高かったとの報道を受けて理由を調べるためだった」と説明。「電話をかけたことに問題はなかった」としているが、それは県警が決めることではない。県警はいつから選挙の投票率アップの分析をしているのか。学校以外にも聞き込みをしているのか。この件では県も「問題ない」としている。自民党の「学校教育における政治的中立性についての実態調査」という密告サイトと同様の思想調査を始めた特高警察をほうふつとさせる。調べるほうには問題はなくても、調べられるほうには問題大ありだ。
★長崎では9日、長崎平和祈念式典で首相・安倍晋三に「改憲反対」と叫んだ男性がいて式典終了後、記者が男性から話を聞いていると警察が割って入り事情を聴き始め、警察車両へ連行。長崎新聞によると警察は「本人の了解を得て」としているが、男性は「触らないでください。離してください」と訴えていたという。沖縄県国頭村の米軍北部訓練場内のヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)建設工事現場近くでは、警備の警察官と反対派の激しい攻防戦が続いている。もう我が国は警察国家と言ってよさそうだ。今日は終戦記念日。悲劇を繰り返さないための鎮魂の日であるが、実態は戦前回帰のありさまだ。(K)※敬称略

(余録)「まもなく神罰がくだる」はよくある予言だが… - 毎日新聞(2016年8月17日)

http://mainichi.jp/articles/20160817/ddm/001/070/175000c
http://megalodon.jp/2016-0817-1039-10/mainichi.jp/articles/20160817/ddm/001/070/175000c

「まもなく神罰がくだる」はよくある予言だが、すぐにフランス王に侵攻されたので予言は神の言葉「預言」と受け取られた。15世紀末フィレンツェ、市民はこう予言した修道僧サボナローラを預言者として熱狂的に迎え、市の実権を委ねた。
後にマキャベリは「武装せる預言者は勝利し、備えなき預言者は滅びる」と「君主論」に書く。その「備えなき預言者」の代表とされたサボナローラだった。彼は神権政治を行い、ぜいたく品の焼却などをくり広げたが、市の繁栄を期待した市民の心は離れていった。
サボナローラは政敵に「預言者は火に焼かれない」と火中を歩く試練を求められ、市民の暴動にもあって失脚、処刑された。彼は宗教改革の先駆者とも評価されているが、政治家としてはマキャベリのいう通り落第だろう。
こちらは数々の排外過激発言で喝采(かっさい)を浴びて米共和党大統領候補となったトランプ氏である。しかし、いざ候補となってみれば同じ口から出る言葉が相次いで失言、暴言との批判を招き、支持率を急落させている。窮した当人はメディア批判による責任転嫁(せきにんてんか)を始めた。
最も激しい非難を浴びた失言はイスラム教徒の戦死兵士の家族への侮辱で、なるほどこれでは軍最高司令官たる大統領はつとまらない。他にクリントン氏の暗殺を促すかのような発言など、相変わらずのうけ狙いの暴言が大統領欠格を浮き彫りにするパターンである。
「米国第一」の預言者もまた備えのないところを選挙戦の入り口でさらけだした。どう預言者を気取っても火の中は歩けない。この先どうあれ世界が見たくないのは「核武装せる預言者」だろう。

「首相、先制不使用に反対」報道 「核の傘」依存が浮き彫り - 東京新聞(2016年8月17日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201608/CK2016081702000132.html
http://megalodon.jp/2016-0817-1030-48/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201608/CK2016081702000132.html

【ワシントン=共同】十五日付の米紙ワシントン・ポストは、オバマ政権が検討している核兵器の先制不使用政策について、安倍晋三首相がハリス米太平洋軍司令官に「北朝鮮に対する抑止力が弱体化する」として反対の意向を直接伝達したと報じた。米政府高官の話としている。報道が事実であれば、唯一の被爆国として核廃絶を訴えながらも、核兵器の役割を低減する政策に首相自らが明確に反対したことになる。米国の「核の傘」に依存せざるを得ない日本政府の微妙な立場を改めて浮き彫りにした。 
広島、長崎の被爆者は、米紙が報じた首相の意向に「被爆地の思いに逆行する」と反発した。
「核なき世界」を提唱するオバマ政権は一連の核政策の見直しで、核による先制攻撃を仕掛けない先制不使用政策の採用を検討。しかし、米主要閣僚は反対、韓国やドイツなどの同盟国も懸念を示しているとされ、採用の可能性は低いとの見方が強まっている。
同紙によると、首相はハリス氏に、米政府が核先制不使用を宣言すれば、核開発を続ける北朝鮮などに対する核抑止力に影響が生じ、地域紛争のリスクが高まるとの懸念を伝えた。
やりとりが行われた時期などの詳細に触れていないが、ハリス氏は日本滞在中の七月二十六日に首相官邸安倍氏と会談している。
川口順子元外相とオーストラリアのエバンズ元外相らアジア太平洋地域の元閣僚や軍高官ら四十人は十六日、オバマ政権に先制不使用政策の採用を強く促し、「太平洋地域の米同盟国」に採用支持を求める声明を連名で出した。松井一実広島市長と田上富久長崎市長も今月、同政策の後押しを求める連名の要望書を首相らに提出している。
 ◇ 
米国の核兵器の先制不使用論に関し、安倍晋三首相がハリス米太平洋軍司令官に反対の意向を伝えたとの米紙報道について、日本政府から目立った反応は出ていない。
首相は七月二十六日、ハリス氏と官邸で会談し、日米同盟の強化へ連携していくことを確認したが、外務省筋は「この時は先制不使用の話は出ていない」と指摘。「私的な会話で言及したかどうかまでは分からないが、首相のカウンターパートはオバマ大統領なので考えにくい」と述べた。
<核の先制不使用> 敵の核攻撃を受けない限り、核兵器を使用しないとの政策。現在、米ロ英仏中の五大核保有国のうち先制不使用を宣言しているのは中国のみ。オバマ米政権は2010年の「核体制の見直し(NPR)」で、核拡散防止条約(NPT)を順守している非核国には核攻撃を行わないと明記したが、先制不使用は宣言しなかった。 (共同)

道徳教育 心を評価できるのか - 東京新聞(2016年8月17日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016081702000143.html
http://megalodon.jp/2016-0817-1033-05/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016081702000143.html

思いやりや規範意識の土台となる道徳性は、成長ぶりを把握しうるものなのか。文部科学省の専門家会議が打ち出した道徳科の評価のあり方には疑問が残る。先生の好みに左右されてはたまらない。
これまで教科外の活動とされてきた小中学校の道徳の時間は、二〇一八年度から順次、正式の教科に格上げされる。先生は検定教科書を用いて授業を行い、子どもの成長を評価せねばならない。
道徳の教科化論議は、大津市でのいじめ自殺を一大契機として加速した。専門家会議がまとめた指導や評価の方法に従えば、いじめは解消されるのか。
効果的な指導法として、例えば仲間との話し合いや役割演技を通して、ものごとを多角的、多面的に考えさせるという。「議論する道徳」の導入を目指す文科省の既定方針を踏まえたものだ。
確かに、子どもに徳目を暗唱させるとか、偉人の生き方を模範として強いるといった心配は不要なのかもしれない。それでも、なぜ教科化なのかは理解し難い。
情意や信念、態度、行動、性格特性をふくめ人格を形成する道徳性は、考え、議論すれば養われるのか。系統立てて組織化された国語や社会、理科などの知識や技術を学ぶごとく身につくのか。科学的な根拠ははっきりしない。
評価法については、公平、公正が担保されない懸念がある。
子どもを比べず、成長過程を数値ではなしに記述で表し、入試の合否判定には使わないというたがをはめた。それ自体が心のありようの品定めの難しさを物語る。
では、どうやって変化を知るのか。発言や感想文、また仲間の話を聞き、考える姿を追跡して、問題を多様な視点から捉えたり、自分事として理解したりできるようになったかを見取るという。
ならば、先生は学級の一人ひとりと分け隔てなく信頼関係を築くことが前提となる。子どもが場の空気を読み、先生の顔色をうかがうようでは、真の評価はおぼつかない。多忙な先生が親身かつ丁寧にこなせるのか。
いじめ問題に立ち戻れば、子どもの道徳性の欠如にばかり原因を求める近視眼的な風潮は、背景に横たわる深刻な事態を覆い隠しがちだ。
競争一辺倒の学校や経済格差が広がる家庭、結びつきの薄い地域、拝金主義が漂う社会…。こうした不道徳な環境の改善こそが先決であり、政治の重要な責務でもある。それを棚に上げて、子どもの内面に介入するのは筋違いだ。

(原発再稼働の是非)大飯原発「基準地震動評価」が批判されるワケ 島崎氏の指摘を規制委は否定したが… - 東洋経済オンライン(2016年8月17日)

http://toyokeizai.net/articles/-/131955

再稼働に支障が出るから再検証はできない!?
長沢啓行・大阪府立大学名誉教授(生産管理システム)は、「原子力規制委の田中委員長は、入倉・三宅レシピしか原発の審査で使えるものはないと語っているが、この認識は間違っている」と指摘する。
脱原発市民グループ「若狭ネット資料室」室長を務める長沢氏は、これまで、九州電力川内原発四国電力伊方原発など数多くの原発地震動評価の実態を詳細に検証。再稼働差し止め訴訟などで意見書を提出してきた。
その長沢氏は次のように指摘する。
「政府の地震調査研究推進本部が使っているもう一つの予測手法(レシピ)で再計算したほうがより正確である一方、計算された地震動は関電が設定した現在の基準地震動の1.5〜1.6倍程度になる。しかし、そうなると、大飯原発3・4号機では2012年3月のストレステスト(耐震余裕度テスト)で算出された炉心溶融につながる『クリフエッジ』(限界点)を超えてしまうので、原発は再稼働できなくなる。ほかの原発も再稼働が困難になる可能性が高い。だから、(今まで原発の審査で実績がないなどとの理由で)推進本部が用いている手法による再計算を拒んだのではないか」
このように、基準地震動をめぐるやりとりには政治的な思惑がつきまとう。
とはいえ、事態は前に動き始めている。原子力規制委によって島崎氏が持ち掛けた論争はいったん幕引きとなったが、原子力規制庁の事務レベルでは、「熊本地震の知見を踏まえると審査のやり方の再検討は不可避」との見方が広がり始めている。
いみじくも島崎氏は、「科学的事実をいかに反映させるかは、審査にたずさわる人たちの判断や見識による」と語っている。地震動評価のあり方をめぐる議論は、遠くない時期に再開される可能性が高い。

原発事故 ふるさと離れて“保養”9000人余 - NHKニュース(2016年8月17日)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160817/k10010638561000.html
http://megalodon.jp/2016-0817-0655-14/www3.nhk.or.jp/news/html/20160817/k10010638561000.html

東京電力福島第一原発の事故を受けて、放射線への不安から一時的にふるさとを離れて過ごす「保養」を行った人が、去年10月までの1年間にのべ9000人余りに上っていたことが分かり、調査を行った民間団体は「費用面などで支援が必要だ」としています。
5年前の原発事故のあと、幼い子どもがいる親を中心に、放射線への不安から夏休みなどを利用して一時的にふるさとを離れて過ごす「保養」が広がりました。

「保養」について情報提供を行っている民間団体、リフレッシュサポートは、その実態を把握しようと、保養を受け入れている234の団体を対象に調査を行い107の団体から回答を得ました。それによりますと、去年10月までの1年間に保養を行った人は、福島県の居住者を中心にのべ9301人に上っていたことが分かりました。

滞在先は北海道から沖縄まで全国29の都道府県にわたります。受け入れの課題を聞いたところ、「活動の資金不足」が28団体、「原発事故や支援に対する関心の低下」が18団体などとなっています。原発事故のあと、福島県は子どもたちの自然体験活動などに対して宿泊費や交通費を支援する制度を設けていますが、県外では対象が6泊7日以上に限られています。リフレッシュサポートの疋田香澄代表は「実際にはもっと多くの人たちが保養を繰り返しているみられ、家族と受け入れ団体の双方に費用面などで支援が必要だ」と話しています。

やっぱり危ない伊方原発 発電初日の地震直撃に専門家警鐘 - 日刊ゲンダイ(2016年8月17日)

http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/187842

発電初日、襲われた。15日山口県で起きた震度3の地震伊方原発3号機がある愛媛県伊方町でも震度2を観測した。四国電力では12日に原発を再稼働し、15日から発電と送電を始めたばかり。いきなり地震に“直撃”され、周辺住民は「やっぱり伊方原発は危険だ」と不安を強めている。
伊方原発は以前から、その“危険性”が指摘されてきた。わずか8キロ先に国内最大の活断層中央構造線断層帯」があるからだ。4月の熊本地震はその延長線上の「布田川・日奈久断層帯」が動いて起きた。愛媛県中村時広知事は「(伊方原発で)福島と同じことが起こることはない」と断言しているが、何を根拠に言っているのか。武蔵野学院大島村英紀特任教授(地震学)がこう言う。
熊本地震以降、震源地は周辺地域に広がってきています。今回の震源地の伊予灘伊方原発のすぐ隣にある。非常に怖い場所で起こったといっていい。中央構造線断層帯沿いは、これまで地震が繰り返され、地震に弱い岩盤が広がっていて、不安要素は多いんです。しかも、福島第1原発事故の本当の原因は、まだ地震津波か、はっきりしていない。そうした段階で、伊方原発を『安全』と言い切るのは早すぎるでしょう」
そもそも、いま危険な「伊方原発」を再稼働させる理由はほとんどない。電力業界は「電力の安定供給に原発は欠かせない」と説明するが、原発稼働がゼロでも、電力は十分足りている。しかも、原油安の影響で火力発電の燃料費も安く済んでいる。「原発のほうがコストは安い」という言い分も、事故対応や廃炉への費用を考えると、正しい見方とはいえない。
ジャーナリスト・横田一氏はこう言う。
「電力会社が再稼働を急ぐのは、すでに燃料も買って施設もあるからです。初期投資が大きい原発では、なるべく長期で使用したほうが、経営上はプラスになる。政治家側も、現在は電力会社から直接の政治献金はありませんが、選挙時に運動員を出すという人件費の無償提供を受けている。『脱原発』という候補には、『応援しないぞ』と脅しをかけるケースも多い。選挙を“人質”に取られ、原発推進にならざるを得ないんです」
国民の安全よりも、大切なのはカネと選挙ということだ。発電初日に伊方原発を揺らした地震は、天の啓示ではないか。

伊方原発再稼働 格別に不安材料が多い - 毎日新聞(2016年8月17日)

http://mainichi.jp/articles/20160817/ddm/005/070/040000c
http://megalodon.jp/2016-0817-1035-23/mainichi.jp/articles/20160817/ddm/005/070/040000c

愛媛県伊方町四国電力伊方原発3号機が再稼働し、発電と送電も始まった。原子力規制委員会の安全審査に合格した原発の再稼働は鹿児島県の九州電力川内原発1、2号機、福井県関西電力高浜原発3、4号機に次いで全国5基目だ。
中村時広知事は記者会見で「考えられる最高の安全対策が施されている。福島と同じことは起きない」と断言した。これではまるで、かつての原発安全神話の復活ではないか。
そもそも、原子力防災の観点から見ると、伊方原発は、日本の原発の中でも格別に不安材料が多い。
東西約40キロ、最小幅は約800メートルと細長い佐田岬半島の付け根に位置していることが最大の問題だ。原発の西側には約4700人が居住するが、原発事故が起きれば、住民は逃げ道を塞がれかねない。
しかも、原発の沖合約6〜8キロには国内最大級の活断層中央構造線断層帯」が走っている。四国では南海トラフ巨大地震の発生も懸念される。大地震原発事故との複合災害が起きてもおかしくない。佐田岬半島は地盤がもろい箇所も多い。
県などの避難計画では、事故発生時、原発の西側の住民は車や船などを使って半島から脱出する。だが、複合災害が発生した場合、陸路も海路も使えない恐れがある。
住民はその場合、自宅や避難所で一定の間、屋内退避をする。被ばくを避けるためだ。
ただし、震度7の揺れに2度襲われた熊本地震のような場合は、自宅に退避し続けることすら難しい。
公設の避難所も万全ではない。伊方町には放射線防護対策施設が7カ所ある。ところが、うち四つは土砂災害警戒区域内にあるのだ。
高浜原発が司法判断で運転停止中のため、伊方原発はウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使う国内唯一のプルサーマル発電となる。MOX燃料は通常の核燃料に比べ制御棒の利きが悪くなるなどの問題が指摘されてきた。使用済みMOX燃料は、具体的な処理方法すら決まっていない。
避難計画の策定義務は自治体にある。内容が不十分でも原発の再稼働が認められるのは、規制委の安全審査の対象外で、再稼働の要件ではないためだ。本来なら、第三者機関が避難計画の実効性を原発の稼働前に審査する仕組みが必要だ。
四電は伊方3号機の稼働による収益改善効果を年間約250億円と見込む。ただ、今夏の全国の電力会社の供給力には余裕がある。電力需給面から再稼働を急ぐ必要はない。
複合災害対策を先送りしたまま、原発に回帰する政府や電力会社の姿勢を認めることはできない。