〈視点〉厳しさ増す中国の人権 当局の圧力、家族にも 中国総局・新貝憲弘 - 東京新聞(2023年11月14日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/289807

中国の人権・民主活動を巡る状況が厳しさを増している。「国家安全」を最優先に掲げる習近平しゅうきんぺい政権が異論を排除する姿勢を強めているからだが、当局の圧力は対象者だけでなくその家族にも及んでいる。明らかに行き過ぎた当局の対応は経済的負担も大きく不可解と言わざるを得ない。

人権派弁護士として知られた王全璋おうぜんしょうさん(47)は9月末、北京市内の小学校から長男の通学手続きを取り消すとの連絡を受けた。当局の圧力があったとみられ、王さんは市外で息子を受け入れてくれる学校を探し出したという。王さんは農民の土地問題や当局非公認のキリスト教徒の弁護などを手がけてきたが、2015年7月に他の人権派弁護士や活動家らとともに拘束された「709事件」に巻き込まれ、国家政権転覆罪で懲役4年6月の判決を受け、20年4月に出所した。王さんは「父親として、一家の長としてつらい」とこぼす。

王さんの自宅マンション玄関前や階段下には常時数人の男が待機し、王さん一家の動向を監視している。監視者のなかには高齢者や身障者もおり、王さんは「一種の雇用対策ではないか」と冗談気味に話す。中国政府の社会安定にかけるコストは国防費を超えるのではとの指摘があるが、王さん1人にこれだけの費用をかければうなずける。

米政府系メディア「ラジオ自由アジア」などによると、王さんと同じように709事件で懲役3年、執行猶予4年の判決を受けた李和平りわへいさん(52)も、6月にタイへ出国しようとしたところ警察当局に阻まれパスポートを没収された上、北京郊外への転居を余儀なくされた。ただ北京は各国大使館や海外メディアがあり
「中国を地獄に例えると北京は一番ましな地獄。北京から離れるとひどい目に遭っても気付かれない」(王さん)。709事件で拘束された人権派弁護士や民主活動家のなかには出身地に戻された人もおり、王さんらの境遇はまだましかもしれない。

王さんは当局の圧力が強まった理由として、4月にフランスのマクロン大統領と欧州連合EU)のフォンデアライエン欧州委員長が訪中したのを受け、王さんが「EUの大使館と接触するのでは」と警戒したと推測する。当局の懸念は空振りに終わっただけでなく、海外メディアや人権組織が王さんらの境遇に注目するという逆効果を招いた。

当局はなぜここまで執拗しつように圧力をかけるのか。王さんは厳しい行動制限で感染者を徹底的に抑えた「ゼロコロナ」政策に象徴される習政権の「一掃思想」と、「管轄区域から出ていけばよい」という現地担当者の責任回避が理由と説明する。それならはじめから王さんらを「国外追放」した方がよいのではないか。多大な費用をかけ、海外からの批判を受けてまで異論を抑え込む姿勢は理解できない。