<コラム 筆洗>メチル水銀で汚れた九州・不知火海の魚を食べた人が発症した水… - 東京新聞(2023年9月29日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/280435

メチル水銀で汚れた九州・不知火海の魚を食べた人が発症した水俣病。実態を告発した作家石牟礼道子さんの『苦海浄土』に、患者の家族や漁師らが、水俣を訪れた国会議員団に陳情する場面がある。
公害病認定前の1959年の話。市立病院前に集まった人たちは議員団と向き合うと、抗議の鉢巻きを外し旗を地面に置いた。
静寂の中、主婦が前に出て語った。水俣病で子を亡くし、夫は海の汚染で魚をとることができなくなった。「私たちの生活は、もうこれ以上こらえられないところにきました。(中略)どうか、わたくしたちを、お助けくださいませ…」
陳情から64年。助けるべき人が残されていると司法が判断した。大阪地裁判決は不知火海周辺に以前暮らしたのに法に基づく救済を受けられなかった原告128人全員を水俣病と認め、国などに賠償を命じた。
国側は救済対象者の年代を限定し、居住地も不知火海周辺の特定地域に絞ったが、無慈悲ともいえるその線引きに見直しを迫った裁き。国の役人は控訴を考えていようが、こんな時こそ「政治主導」の血の通った決断がほしい。
苦海浄土では、陳情に耳を傾けた国会議員団が「平穏な行動に敬意を表し、かならず期待にそうよう努力する」と述べ、人々は実現を祈る万歳を唱えた。当時の約束はまだ果たされていないと、原告のために動く政治家はいないものか。