<コラム 筆洗>高い壁を心の中で思い描く。この壁が敵の攻撃を防いでくれるか… - 東京新聞(2023年5月22日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/251500

高い壁を心の中で思い描く。この壁が敵の攻撃を防いでくれるかもしれない。壁の内側にいる人間にとって高く厚い壁がどれほど心強いことか。
先進七カ国首脳会議(G7広島サミット)が閉幕した。首脳声明でロシアのウクライナ侵攻を厳しく非難し、侵攻が続く限り、ウクライナ支援を続ける方針を打ち出した。ロシアの侵攻から一年余。欧米の支援疲れも見える中、今回のサミットでウクライナを守る「壁」をもう一段、強くする構えである。
欧州各国が米国製戦闘機F16をウクライナに供与する動きに対し、米国が容認する方針をサミットのタイミングに合わせて示したのも「壁」を厚くする狙いがある。インド、ブラジルなどロシアとの関係浅からぬ国々へのアプローチもG7側の「壁」を支えてほしいためだろう。
「平和が近づく」。来日したウクライナのゼレンスキー大統領はほっとしているだろう。壁の高さにロシアがひるみ、撤退する−。そんな平和へのシナリオをこちらとしても期待したくなる。
もう一度、壁を思い描いてみる。今度は外側から見る。その壁は自分を拒絶し、憎んでいるように見えるだろう。壁の外の人間は壁にさらなる敵意を燃やす可能性もある。
高い壁はできた。次にこしらえるべきは「窓」である。和平に向けロシアとの対話のための「窓」。壁を高くするよりG7には難しい工事となる。