<コラム 筆洗>戦時中、滋賀県内の役場で召集令状「赤紙」の配達を担当してい… - 東京新聞(2023年4月22日)

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戦時中、滋賀県内の役場で召集令状赤紙」の配達を担当していた男性宅に、既に何度も赤紙が来て息子たちが召集されていた父親がやってきた。
手土産は大きなコイ。「なんとか、もう自分の息子たちを召集しないでほしい」と頼まれた。自分は赤紙を配るだけで召集の人選はしていないと説明したが、気の毒で本当に弱ったという。徴兵を嫌がれば「非国民」と呼ばれる時代。父親も覚悟を決めての行動だったか。吉田敏浩氏の著書『赤紙と徴兵 105歳 最後の兵事係の証言から』にあった。
ウクライナ侵攻で兵員を確保したいロシアが令状の電子化を決めた。各種行政サービスを受けるために多くの国民が登録しているインターネット上の統一システムを通じ、令状が届くという。
従来の紙の令状は手渡しの必要があり、受け取りを避けようと行方をくらましたり、国外脱出したりする人が相次いだ。電子化された令状が個人のアカウントに届くと出国できなくなる。一定の期間内に徴兵当局に出頭しなければ、自動車の運転や不動産取引が禁じられるという。徴兵逃れを許さない強権発動に見える。
先の著書には、息子五人が次々と出征した家の話もある。赤紙を受け取った父親が「そうですか、また来ましたか」とうつむいて涙した時には、配達した側ももらい泣きしたという。
デジタルの世の冷酷さが際立つ感もある。