https://www.tokyo-np.co.jp/article/209578
岸田文雄首相が国会で、宗教法人に対する解散命令を裁判所に請求する要件に「民法の不法行為も入り得る」と答弁しました。前日には民法の不法行為は除外されるとしていましたので、法解釈を一夜で変更したことになります。
国会審議を経て成立した法律の解釈を政府が勝手に変え恣意(しい)的に運用することが許されてはなりません。今回の解釈変更に「朝令暮改」との批判が出るのは当然です。
同時に、法解釈の変更には「良い変更」と「悪い変更」があることも指摘しておく必要があります。
今回、宗教法人法の解釈が問題となったのは、信者による多額献金や霊感商法などが社会的問題となった旧統一教会(世界平和統一家庭連合)に、同法に基づく解散命令に該当する疑いがあるとして、首相が閣僚に教団の調査を命じたことがきっかけです。
旧統一教会の組織的な不法行為責任を認めた民事裁判の判決はありますが、教団本体の組織犯罪を罰した刑事判決はありません。従来のように民法の不法行為を除外する法解釈を維持するなら、仮に解散命令を請求しようとしても新たに刑事訴追し、司法手続きを経るまで何年もかかります。それでは被害者救済になりません。
東京新聞は今回の解釈変更を「良い変更」に当たると考え、二十日朝刊社説で「妥当な判断」と評価しました。
では「悪い変更」とは何でしょう。まず思い浮かぶのは安倍晋三内閣当時、黒川弘務東京高検検事長の定年延長のための法解釈変更です。実現しませんでしたが、政権に近いとされた黒川氏を検事総長に就けるためとされました。
もう一つは日本学術会議が推薦した新会員候補六人の任命を菅義偉内閣が拒否した際の事実上の法解釈変更です。政権に批判的な学者の排除が狙いと指摘されました。
いずれも、政権にとって都合がいいように法解釈を変えるものです。唯一の立法府である国会での議論を軽んじるものにほかなりません。
宗教法人法を巡る法解釈変更は、国会で野党が問題点を指摘し、政府の考えを関係省庁で整理した結果です。議会制民主主義のあるべき姿とも言えます。私たちは権力監視と同時に、国会が本来の役割を果たせるよう、応援していきたいと考えます。 (と)