<コラム 筆洗>「男性の皆さん、私たちの首を踏みつけている、その足をどけて… - 東京新聞(2022年6月26日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/185726

「男性の皆さん、私たちの首を踏みつけている、その足をどけてください」。十九世紀の米国で女性参政権運動家として活動したサラ・グリムケの言葉だが、有名にしたのは米連邦最高裁判事を務めたルース・ベーダー・ギンズバーグさんだろう。
ギンズバーグさんが弁護士時代の一九七三年、女性の権利をめぐる裁判の中で引用し広まった。その後、米連邦最高裁判事となり、女性を踏みつける数々の「足」と闘い続け、二〇二〇年に亡くなったギンズバーグさんならこの判決をどう嘆くか。米連邦最高裁は女性の人工妊娠中絶の権利を認めた七三年の「ロー対ウェード」判決を覆す判断を示した。すなわち、憲法は中絶の権利を与えていないと。
最高裁判事の構成が変わった影響だろう。トランプ政権時代に三人の保守派が任命された結果、中絶に反対する意見が優勢に。ギンズバーグさんも今はない。
カトリックの教えから日本人が想像する以上に中絶反対派の多いお国柄とはいえ、女性の権利として長く認められてきたものが、こうもあっさりとひっくり返されるとは。
判決による混乱と対立を心配する。自分を踏みつけていた足。一度は離れたはずなのに再び…。今回の判決をそう受け止めている米国女性も多いだろう。
保守傾向を強める最高裁の次の判例変更の「標的」は同性婚と聞く。米国の方向転換が気がかりである。