【政界地獄耳】現場顧みぬヤジ排除通達の検証を - 日刊スポーツ(2022年4月2日)

https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202204020000075.html

★それは東京から指示が飛んだ時から無理があった。19年7月、参院選の応援に訪れていた北海道・札幌で遊説中の首相・安倍晋三(当時)へのヤジから始まった。首相の周りには多くの警備と聴衆。20メートル離れた場所から男性が「安倍辞めろ」といった瞬間、5、6人の道警の警察官が男性をその場から排除した。直後には女性が「増税反対」と言い女性警官に両腕をつかまれその場から排除された。当時多くの国民はヤジも言えない国家や有無も言わさず排除をする警察に不安を覚えた。

★道警は排除の根拠を当初説明できなかった。道議会で問われても答えられず、2人が起こした裁判での道警の理屈は警職法4条1項の「生命もしくは身体に危険を及ぼす恐れのある危険な状態にあった」、同法5条の「犯罪がまさに行われようとしていた」というもの。札幌地裁は3月25日、訴えを認め、道に計88万円の支払いを命じた。

★警察組織は命令で動く。北海道以外にもいくつかの県で同様の事態が起きたことを鑑みれば組織の通達があったことは容易に想像がつく。当時の警察庁警備局長・大石吉彦(現警視総監)は局長に就くまで安倍の首相秘書官を長く務めた。当時の北海道警本部長・山岸直人は大石と同期入庁。組織内で幹部同士の忖度(そんたく)があったかもしれないが、この過剰警備を強いられた現場はさぞつらかったはずだ。局長の通達を全国の県警本部の幹部がどう受け止め、どう現場に降ろしたかはまちまちだろうが、職務を遂行してから判決まで現場の警官たちは針の筵(むしろ)だったのではないか。

★今回、裁判では一部始終が複数の映像で残されており、現場の裁量で過剰警備とされたかもしれない。それでも要人警護は日々続いているし現場では命を懸けて警察官が職務についている。道知事は8日までに控訴するかどうか判断するが、警察庁は現場の警官たちのためにも当時の通達をさかのぼって検証する気はないか。(K)※敬称略