(筆洗) このロックコンサートには二十、三十代の若者はいない。中心は… - 東京新聞(2022年3月17日)

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このロックコンサートには二十、三十代の若者はいない。中心は六十代か。そんな世代が手をたたき、踊る。若い人が見たらぎょっとするか。日比谷野音ムーンライダーズのコンサート。
結成は一九七五年。現存する日本最古クラスのロックバンドだろう。コンサートの良い出来にウクライナをしばし忘れる。
観客に知り合いがいるのではないかという気になる。似た年齢、同じ対象を長く応援してきた仲間意識がそんな錯覚を起こさせるのか。「あなたも若い時からこれまでの間、いろんなことがあったでしょう」。隣の客につい声をかけたくなる。見知らぬ人がかつての同級生のように思える。
音楽評論家の松村雄策さんが亡くなった。七十歳。ロックファンには同級生ではなく、先生だろう。七二年に渋谷陽一さんらと「ロッキング・オン」を創刊。レコード会社の宣伝ではなく、アーティストと対等の立場でロックを批評する。日本の音楽雑誌を変えた伝説の一人である。
硬派で難解な原稿が目立ったかつての同誌の中でこの人のコラムは分かりやすく人間くさかった。
八一年三月号。ジョン・レノン暗殺にショックを受け、どれだけ酒を飲んだかを書いている。そして自分とは違い「若者たちはジョン・レノンが死んだからといって世界が終わるわけではないという顔をしていた」。松村さんの懐かしい筆に飲みたくなる。