(筆洗) 伝統的なジャズからの脱却を目指したマイルス・デイビスが注目… - 東京新聞(2021年2月14日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/85878

伝統的なジャズからの脱却を目指したマイルス・デイビスが注目していたのは電子楽器だった。
電子楽器でジャズとロックを融合させた実験的な音楽をつくる。一九六〇年代後半の話だ。時代は自由で新しい音を求めていた。
ところがである。新入りの若いピアニストが電子ピアノをいやがった。マイルスが強引に弾かせたが、この抵抗した若いピアニストはやがて電子ピアノの第一人者になる。米ジャズのチック・コリアさんが亡くなった。七十九歳。
マイルスの開いた新たな扉を押し広げ、ジャズを下地にさまざまな音楽を溶け込ませたフュージョン音楽の花を大きく咲かせた。コリアさん率いる「リターン・トゥ・フォーエバー」の「ライト・アズ・ア・フェザー」(七二年)を愛聴盤とする世代もあるだろう。
音楽のジャンル分けを無意味と語っていた。そういえば、最近はフュージョンという呼び方もあまり聞かない。あらゆる種類の音楽を融合させる。そのこと自体が、音楽づくりの上で普通のことになったためだろう。これもコリアさんの開いた道である。
ジャズピアニストの上原ひろみさんがコリアさんに初めて会ったのは十七歳の時だった。何か弾いてと言われ、一曲聴かせた。弾き終わった上原さんにこう言った。「明日の午後、空いている? 私のコンサートに出てほしい」。心にも垣根のない人だったらしい。

 


Return To Forever - Hymn Of The Seventh Galaxy Live At Montreux 2008