有罪率99%超の重圧(中島邦之さん) - 西日本新聞(2020年9月30日)

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今月中旬、鹿児島地検トップの就任記者会見での発言が「報道をけん制するもの」と地元マスコミの批判を浴びた。
鹿児島県で41年前に起きた大崎事件が冤罪(えんざい)だったとして原口アヤ子さん(93)が裁判のやり直しを求めた第4次再審請求審。弁護団は根拠を示して他の人の犯行の可能性に触れた。それを伝える報道を「大変な人権侵害になる」と検事正が述べたのだ。有罪判決を絶対に守り抜くという検察組織の強い意思を感じた。
そんな折「現場の本音」を聞いた。元検事の市川寛弁護士(55)が19日、インターネット配信された公開セミナー(再審法改正をめざす市民の会主催)でこう話した。
刑事裁判は有罪率99%超。起訴した事件は有罪判決を獲得して当然だ。無罪が出たら組織内で疎まれ、将来も暗い。でも99%なんて数字が、そもそもおかしい。どんなに訓練を受けた人間や組織でも間違いは起きる。「そのときに批判一辺倒ではなく、市民に一定の寛容さを持ってもらえたら-」。その主張は同意できなかったが、理解はできた。
市川さんは2001年の佐賀地検時代、佐賀市農協背任事件を主任検事として担当。「ぶっ殺すぞ」と暴言を吐いて自白させた組合長が無罪になり、辞職した体験を赤裸々に著書「検事失格」に記す。証拠がないまま見立てに沿い、上司から「割れ」(自白させろ)「立てろ」(起訴しろ)と迫られ、引き返すことができなかった後悔と自責の念を明かしている。
セミナーでは約13年の検事時代に感じた「検察の論理」も語った。「『全ての証拠を見ているのは自分たちだけだ』『検察に間違いはない』という意識が強すぎる。よくいえば矜持(きょうじ)だが、裏返せば独善的。いったん起訴すれば100%有罪で当然だから、無罪判決には徹底的に抵抗する」
再審請求事件でも、DNA型鑑定などで誤判が判明しない限り、容易に再審開始を受け入れない。「確定判決には合理的な疑いがある」として、過去3回も裁判所の再審開始決定が出た大崎事件。そのたびに不服を申し立てた検察は、証拠吟味のプロとして本当にアヤ子さんが真犯人だと考えているのか。組織のメンツを守るためだけの行動ではないと信じたいが。
市川さんは8月「ナリ検」を出版した。無罪判決後の検察庁内の対応を巡り、弁護士から転身した検事の挑戦を描いたフィクション小説だ。「検察組織を変えるのは生え抜きでは無理。弁護士の考え方ができる検事しかいないだろうという発想が出発点」と語っている。 (社会部編集委員