(筆洗)「最も美しくない音楽」と銘打った曲を聴いたことがある。米国… - 東京新聞(2020年10月1日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/58956

「最も美しくない音楽」と銘打った曲を聴いたことがある。米国の数学者が作曲した。
音楽の美しさは反復やパターンの繰り返しによって生まれると考えた数学者は音程、リズム、和声が一切反復しない曲を数学的概念によって作ったという。失礼、書いている本人も正直、よく理解していないのだが、デタラメに音符を並べたわけではないらしい。
ピアノによる演奏を聴けば、確かに不気味だが、ところどころは魅力的で不思議な味わいがある。昨日、耳にした「音」に比べれば、よほど美しい。昨日の音とは米大統領選挙の最初のテレビ討論会である。米メディアが「カオス(混沌(こんとん))」と報じたのも分かる。紛(まご)うことなき「最も美しくない音楽」だった。
民主党のバイデンさんが発言をするたびにトランプ大統領がそれをかき消し、攻撃する。モデレーター(司会者)の制止も聞かず、ただ持論と自己賛美を繰り返す。
ある程度は覚悟していたが、ここまで醜くなるとは。あまつさえ、大統領は白人至上主義グループを支持するかのような発言もしている。
おそらくは戦略なのだろう。相手やその支持層を攻撃し、勝つためならルールさえ守らぬという姿勢は自分の支持層には気にいられるとでも考えたか。わめき、ののしり、品位も敬意もない。これが現在の米国政治が奏でた音楽である。曲名は「絶望」としか思いつかない。