<金口木舌>求めているのは当たり前の権利 - 琉球新報(2020年9月5日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-1185573.html

日本でもブームになっている韓国ドラマ「梨泰院(イテウォン)クラス」。主人公の営む居酒屋の料理長はトランスジェンダー。自身の「性」を公表せず生きてきたが、敵対する企業から「秘密」を暴露され精神的に追い詰められる
▼当事者の苦悩は計り知れない。2015年、一橋大学法科大学院の男子学生が校舎から転落死した。同性愛者であることを同級生に暴露(アウティング)された2カ月後だった。アウティング性的指向性自認を本人の同意なく暴露する行為
▼事件を契機に大学のある国立市は18年、アウティングを禁止する条例を制定した。今年1月、一橋大に性的少数者や関心のある人々の集う交流センターが設置された。学生サークルが運営し啓発活動を展開している
アウティング問題への関心は高まりつつあるが、行政の対応は道半ばだ。ハラスメント規制法はアウティングもハラスメントと規定し、大企業に防止対策を義務付ける。しかし、職場以外の規制はないのが実情だ
共同通信社の全都道府県を対象にした調査によると、禁止を明記する条例を検討しているのは三重県のみ。アウティングは当事者を死に追い込むこともある。重大な人権侵害である
▼性の多様性の尊重が話題に上ると「わがまま」という批判を聞く。安心できる環境で当たり前に学び働きたい。求めているのは多数者と同じ権利だ。