<金口木舌>八汐の波 悲しい海 - 琉球新報(2020年8月19日)

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2015年に立て替えられた那覇市の県教職員共済会館・八汐荘に、元県知事の屋良朝苗さんの功績をたたえて名付けた「屋良ホール」がある。入り口に安次富長昭さん作のレリーフ「黎明(れいめい)」が飾ってある

▼1960年に建てられた旧八汐荘にもこの作品はあった。15年の落成式に招かれた安次富さんは「沖縄を取り巻く八汐の波を県民皆で乗り越えてほしいとの願いを込めた」と語っている
▼屋良さんが校長を務めた知念高校で学んだ。後に沖縄教職員会長となり復帰運動を牽引(けんいん)した師との縁で「黎明」は生まれたのだろうか。作品のモチーフを電話で尋ねたら「大海原に上る太陽、輝く海をイメージした」と明快に答えてくれた
▼作品が描く波は赤や青に彩られ穏やかに見えるが、沖縄を取り巻く波は時に激しい。そして、海は悲しい色を帯びる。安次富さんは泊国民学校の同級生7人を対馬丸で失った
疎開先から焼土と化した故郷に戻った安次富さんは無から出発し、県民の一人として苦難の戦後史を歩んだ。本紙に寄せた随想で「対馬丸の学童たちも生存していたら、きっと共に沖縄戦後の復興に尽くしてきたものと思う」と書いている
▼先日他界した安次富さんの魂は海の向こうのニライカナイを漂っているのだろうか。同級生たちと再会できただろうか。対馬丸の悲しい船出の日から、もうすぐ76年の日を迎える。