https://mainichi.jp/articles/20200727/ddm/001/070/055000c
「私たちは勝つ/いつか/心に深く/信じて/必ずいつか」。1960年代の米公民権運動で流行した「ウィー・シャル・オーバーカム」は心打たれるプロテストソングだ。人種差別克服への願いが込められている。
65年、米南部アラバマ州セルマで黒人のデモ行進を警官隊が武力で制圧し、多数が負傷した。「血の日曜日」と呼ばれるこの惨事に抗議するキング牧師らが警官隊を前にこの歌を合唱した。
負傷者の中にいたのが若きジョン・ルイス氏だった。キング師が「私には夢がある」と演説したワシントン大行進で「目覚めよ、米国」と訴えた黒人運動家だ。暗殺されたキング師の遺志を継ぎ、下院議員に転じて30年余り差別撤廃に尽力した。
その志も半ばだったろう。白人警官による黒人暴行死への抗議が全米を席巻する中、闘病の末に80歳で他界した。武力をちらつかせてデモ参加者を脅そうとするトランプ大統領に「歴史の想起を封印することはできない」とたしなめたのが最後のことばとなった。
「分離すれど平等」というゆがんだ人種隔離制度をやめさせようと若い頃に参加した「フリーダム・ライド」では白人警官に何度も暴力を受けた。60年後も続く宿弊の根深さを思わずにいられない。
10年以上前だが、後に黒人初の大統領となるオバマ氏と並んで「私たちは勝つ」と歌うルイス氏を目前で見た。小柄だが眼光鋭い闘士の風格を感じた。「社会を少しでも平和にしたいね」。小紙に語っていたその思いを大切にしたい。