中学の教科書 深い学び保障できるか - 北海道新聞(20200年3月31日)

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/407546
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文部科学省は、2021年度から中学校で使われる教科書の検定結果を公表した。
「主体的・対話的で深い学び」を掲げる新学習指導要領の全面実施で、教科書は大きく変わった。
公民では、社会保障の授業の最初に中学3年までの医療費や教育費を調べ、課題や学ぶ意義を考えさせるなど、各教科で知識偏重からの脱却を打ち出している。
国際競争にさらされる経済界の意を受けた政府の方針で、英語教育の刷新やプログラミング学習など、随所で実用性が強められた。
学習内容は質量とも増えた。教科書の消化に追われ、生徒が置き去りにならないか、懸念もある。
学校の働き方改革は緒に就いたばかりだ。「深い学び」をどう実際に保障していくか、文科省自治体の取り組みが問われる。
まず目立つのは量だ。道徳を除く9教科の総ページ数は「ゆとり教育」の頃の約1・5倍もある。
質も変化した。たとえば英語は英語で授業を行い、4技能の「話す」なら即興的なやりとりもある。生徒の実力差に目配りしつつ指導するには、教員の英語力向上とともに相当な工夫が必要だ。
既に始まっている現場の試みを共有し発展させるため、教育委員会の積極的な関与が求められる。
気になるのは、検定を通して教科書に現政権の主張を反映させる姿勢が一層鮮明になったことだ。
集団的自衛権の行使容認は全社が取り上げ、行使の3要件の明示を求める検定意見が相次いだ。
3要件をもって行使は「限定的」とする政府見解に沿うもので、違憲性に関する議論を生徒が理解するには不十分と言える。
憲法改正に関する記述も増え、論点を提示するなど踏み込んだものもあった。激しい論争がある問題であり、実態以上に改憲論が加速している印象を与えないか。
領土問題を詳述させ、北方領土を巡っては「2島返還」の検討にふれた教科書に修正を求めた。「四島の帰属を確認して平和条約を締結する」という政府の基本方針を踏まえたものだ。
教室でどこまで補うことができるか、教員の手腕が問われる。
思考の手順から表現のコツまで盛り込んだ教科書は、教える内容だけでなく教え方まで指定した新指導要領の反映でもあろう。
若手が増えた現場の助けにはなろうが、自由な学びの妨げになるなら本末転倒である。教員の創意を支え、教室に余裕を生み出す働き方改革も不可欠だ。