森友問題 真実知りたいに応えよ - 朝日新聞(2020年3月20日)

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意に反する不正行為を強いられ、公務員としての矜持(きょうじ)も砕かれた。その無念はいかばかりであったか。いまだ解明されていない森友問題の真相に迫る新たな動きにつなげねばならない。
森友学園への国有地売却をめぐる財務省の公文書改ざんに加担させられ、自ら命を絶った近畿財務局の赤木俊夫さん(当時54)の妻が、国と当時の理財局長だった佐川宣寿(のぶひさ)氏に損害賠償を求める訴えを起こした。
弁護団が公表した赤木さんの手記には、本省主導で公文書が改ざんされていく過程が、関係者の実名入りで詳細に記されていた。すべてが佐川氏の「指示」であるのに、近畿財務局に責めを負わせようとする財務官僚の無責任体質への怒りもつづられていた。
麻生財務相はきのうの記者会見で、18年に財務省が公表した調査報告書と手記の内容に「大きな乖離(かいり)」はないとして、再調査を行う考えはないと述べた。報告書では、佐川氏が改ざんの「方向性を決定づけた」と認定しているが、具体的な指示があったのか、佐川氏の一存だったのかなど、肝心な点ははっきりしていない。
そもそも、第三者が入らぬ財務省の内部調査である。首相官邸森友学園の名誉校長だった安倍首相の妻の昭恵氏らからは話も聞いていない。そして、この問題の核心である国有地の大幅値引きについては端(はな)から何も調べていない。全容解明に程遠い報告書を盾に、再調査を拒むのは不誠実極まりない。
佐川氏には法廷で真実を話すとともに、国会でも説明責任を果たしてもらわなければならない。国民共有の財産である公文書が改ざんされ、国民を代表する国会の審議がうその資料と答弁の上に重ねられた。大阪地検の捜査は関係者の不起訴で終わっているが、立法府の行政監視機能がないがしろにされたのである。国会が真相解明に後ろ向きであってはならない。
「(国有地売却に)私や妻が関係していれば、首相も国会議員も辞める」。改ざんは首相がこう言い切った国会答弁の後に始まった。首相は手記をどう受け止めるのか。国会できのう「胸が痛む」としながらも、事実関係は麻生氏の下で徹底的に解明されているとの認識を示した。この問題をもう終わったことにしたいのだろう。
赤木さんの妻が公表したコメントにはこうある。「夫が死を選ぶ原因となった改ざんは、誰が誰のためにやったのか、改ざんをする原因となった土地の売り払いはどうやって行われたのか、真実を知りたい」。この切実な声に応えずして、首相への信頼回復はない。