[石垣市有地売却]なぜ陸自工事急ぐのか - 沖縄タイムス(2020年3月4日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/542474
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住民を置き去りにしたというほかない。
石垣市議会が2日、市平得大俣にある市有地13・6ヘクタールを防衛省に約4億1700万円で売却する議案を11対9の賛成多数で可決した。貸し付ける市有地8・8ヘクタール(年額855万円)とともに3月中に契約を締結する予定だ。
防衛省は、中国をにらんだ南西諸島防衛強化の一環として、陸上自衛隊の基地を建設する計画だ。予定地全体の面積は46ヘクタール。同省はそのうちの民間地を先行取得し、昨年3月から工事を始めている。賃貸を含む市有地は予定地の半分を占め、基地建設は一気に加速することになる。
基地がなかった島に基地ができる。住民生活が大きく変わるのは間違いない。
予定地周辺の於茂登、開南、川原、嵩田4地区の住民は計画反対を決議。防衛省による住民説明会では、有事の際「攻撃対象になる」と不安の声が相次いだ。
市議会に防衛省への市有地の売却を提案した中山義隆市長は「国防や安全保障は国の専権事項」と主張する。
仮に、国の専権事項であったとしても、それが住民にとって最善の策か、住民の声に耳を傾け、判断するのが自治体の長の役割であるはずだ。
昨年、市民でつくる「市住民投票を求める会」が有権者の4割に当たる1万4千筆余りの署名を集め、自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票を求めたが市議会は否決した。
同会は市を相手に、自治基本条例に基づいた住民投票の実施義務付けを求める訴訟を起こした。このタイミングで市や市議会の動きは拙速すぎる。司法判断が出る前に既成事実をつくろうという思惑が透けて見える。

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防衛省石垣島に500~600人規模の警備部隊と地対空・地対艦ミサイル部隊を配備する計画だ。
軍事に詳しい専門家は石垣島への配備は、中国との軍事的緊張を高めることになると指摘する。
偶発的な衝突の可能性を高め、戦場になる危険性をはらむと警鐘を鳴らす。
環境への懸念も強い。昨年3月の着工は、3年かかるはずの県環境影響評価条例の改正前で「アセス逃れ」と批判された。
平得大俣はわき水が豊富な涵養(かんよう)地で、水源地に近い。国の特別天然記念物カンムリワシも生息し、島の生活や生態系に重要な場所だ。
沖縄本島で近年、米軍基地周辺での水質汚染が問題になっており、住民の懸念は増している。

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地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備候補地に挙がっていた秋田市は配備「ノー」を防衛省に伝えた。
候補地は住宅地に近く、地元住民の強い反発を受けたものだ。政府はゼロベースで検討し直す意向を示している。 基地建設という重大な問題を決めるには一連の市、市議会のやり方は拙速で不十分だ。
市と市議会はもう一度、1万4千筆余りの署名が求める住民投票を実施する手だてを考え、民意を問うべきだ。