石垣住民投票否決 賛否の民意を問うべきだ - 琉球新報(2019年2月5日)

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大いに疑問が残る結果だ。石垣市平得大俣への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票条例案石垣市議会が否決した。野党を中心に賛成した議員のほとんどが配備自体に反対のため民意を問う必要性を強調した一方、実施に反対した与党議員は「時期を逸している」「審議不足」などと主張した。
 野党は辺野古新基地建設の是非を問う県民投票と同日実施を狙い議論終結を急いだ。このため実施に反対・慎重な与党を反対で固めてしまった。とはいえ反対した与党の主張は説得力に欠いている。
住民投票直接民主制の一方式で、代表民主制の欠陥を補う制度だ。投票結果に法的拘束力はないが、特定の事象に対する民意の所在を明らかにするために法で認められた住民の権利である。議会はそれを最大限尊重すべきだ。
石垣市議会は県民投票を巡り、反対する意見書を可決し予算案も2度否決した経緯がある。今回の否決で「市民の思いを反映させることがこんなに難しくていいのか」との疑問が市民から上がるのも無理はない。
住民投票を求める署名数は、有権者の約4割に当たる1万4263筆に上った。背景には、自衛隊配備に対する民意が明確ではないという市民の思いがある。
中山義隆石垣市長は昨年7月に配備受け入れを表明したものの、3月の市長選では明確な賛否表明は避けていた。昨年9月の市議選でも、事前に賛否を明らかにしていた議員はいずれも過半数に達していない。石垣市民の意思は明確ではないのだ。
そんな中、国も市も配備に前のめりだ。防衛省は3月1日に駐屯地建設に着手すると県に通知した。改正された県環境影響評価(アセスメント)条例の適用除外や既成事実化を急ぐ思惑が透けて見える。市は容認の構えで、署名はそれらの姿勢への不信の表れといえる。
中国公船の尖閣諸島周辺への領海侵入などへの危機感から陸自配備に賛成する市民がいる。一方、配備先の周辺住民を中心に反対意見も根強い。軍事拠点ができれば攻撃されるリスクが高まる。こうした状況を巡るさまざまな意見は市議会の否決により、全て置き去りにされる。
住民投票を求める会の金城龍太郎代表が「住民が蚊帳の外の外の外に置かれた」と述べたのは、そのことへの批判だ。住民投票を求める運動のうねりをつくってきた若者たちに、強い政治不信を抱かせることも懸念される。
陸自配備に向けて3月に着工する面積は約0・5ヘクタールにすぎない。市や防衛省は一度立ち止まり、市民の声に耳を傾けるべきだ。県議会の与野党が歩み寄り県民投票条例の全県実施が決まったように、石垣市議会も市民と対話を深め、与野党で合意できる住民投票条例案を再度、模索してはどうか。