「別姓」へのやじ 多様性に反する低劣さ - 北海道新聞(2020年1月25日)

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/386535
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衆院の代表質問で、国民民主党玉木雄一郎代表が選択的夫婦別姓制度の導入を訴えた際に、自民党席の女性議員から「だったら結婚しなくていい」とやじが飛んだとして、野党が反発している。
野党側は発言者は杉田水脈(みお)氏だったと名前を挙げ、自民党に事実関係と、撤回・謝罪の意思の有無を確認するよう求めた。
自民党はうやむやにしたいようだが、言論の府にあるまじき低劣なやじを見過ごしてはならない。
玉木氏は「姓を変えないといけないから結婚できない」と交際相手の女性から言われたとする男性の話を紹介し、別姓を認めない現行制度が結婚の障害になっていると安倍晋三首相に指摘した。
家族の在り方は多様化している。結婚を望んでいても夫婦同姓に理不尽さや疑問を感じる若い人は少なくないだろう。働く女性にさまざまな不便を強いてもいる。
そうした声に耳を傾け、政策に生かすのが政治家の務めである。無理解な発言は憲法が保障する個人の尊厳を踏みにじるものだ。
名指しされた杉田氏が沈黙しているのは不可解だ。事実無根であれば反論すべきではないか。
杉田氏は2018年7月、性的少数者(LGBTなど)は「生産性がない」と寄稿し批判された際も、差別の意図はないと釈明するまで3カ月、ほぼ沈黙を続けた。
批判に対処し、説明責任を果たすのは議員の基本である。同じ対応を取ることは認められない。
見過ごせないのは事実確認に動こうとしない自民党の対応だ。森山裕国対委員長は杉田氏への問い合わせの予定はないと言った。
18年1月の衆院代表質問では、沖縄の米軍機トラブルを巡る野党質問に「それで何人死んだんだ」とやじを飛ばした松本文明内閣府副大臣が辞任に追い込まれた。
国会の品位を汚す言動に厳しく臨むのは当然ではないか。
安倍首相は今回の施政方針演説で「誰もが多様性を認め合い、その個性を生かすことができる社会をつくる」と訴えた。
選択的夫婦別姓の導入は、多様な価値観を尊重する時代の要請である。だが代表質問で首相は「わが国の家族の在り方に深く関わることだ」などと述べ、慎重姿勢を繰り返し示した。
自民党内には伝統的家族観にこだわり、導入に反対する根強い意見がある。首相の本音はこちらに近いのだろう。多様性を口にしながら、実行が伴わない政権の矛盾が改めて問われている。