[大弦小弦]権力と読者と記者の距離 - 沖縄タイムス(2019年12月30日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/516481
http://web.archive.org/web/20191230002927/https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/516481

大掃除でマネキンの頭を捨てる人に、伝えたい注意点がある。「ごみ集積所に出すと大事件だと勘違いされる恐れがあります」。燃やせるごみだが、なるべく処理施設に直接持ち込んでほしい-。茨城県ひたちなか市ウェブサイトの「ごみの分別辞典」は呼び掛ける

▼役所らしくない記述はほかにも。ラップの芯は「工作に使うと楽しいよ!」。間違って出してしまった財布は「諦めてください」と告げる

▼辞典は11年前から廃棄物対策課の職員が更新してきた。担当者は「どうしたら分かりやすく伝わり、心に残るか。工夫してきた結果こうなった」と説明する

▼新聞にも、出来事や問題点を分かりやすく伝えたい気持ちが詰まっている。うまくいくこともいかないこともあり、読者の反応がバロメーターになる

▼記事を読んで、パンを焼いて送ってくれた見知らぬ読者がいる。直径が24センチもあって「ペンの原点 命どぅ宝」と文字が飾り付けてあった。記事が甘いとみるや、電話をくれる知人がいる。激論になることもある

▼権力を近くで取材し、書いていると、毎日会う相手にどう見られるかが気になる。でも取材も執筆も本来は、会う機会が少なくても読者を代行する仕事だ。叱咤(しった)と激励が、その原点を思い起こさせてくれる。読者との距離が近い私たち沖縄の記者は恵まれている。(阿部岳)