パワハラ自殺 実効ある「防止法」に - 東京新聞(2019年11月21日)

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トヨタ自動車社員の自殺は「上司のパワーハラスメントが原因」だとして、労働基準監督署が労災認定した。企業に対策を義務付ける「パワハラ防止法」が今年成立。実効性のある法であってほしい。
報道によると、男性社員=当時(28)=は入社翌年の二〇一六年春から直属の上司に「バカ、アホ」「こんな説明ができないなら死んだ方がいい」などと日常的に叱責(しっせき)されて適応障害になり、三カ月間休職。復職後の一七年十月、社員寮の自室で自殺した。
遺族は今年三月、労災を申請。豊田労基署(愛知県豊田市)は、男性が上司のパワハラ適応障害を発症し、復帰後も治癒していなかったとして、九月に労災認定したという。
パワハラ被害や心の病による労災請求は増え続けている。一八年度、厚生労働省に寄せられたパワハラ関連の相談件数は八万件超で過去最高。精神疾患による「過労死等の労災請求」は年々増えて千八百件余になり、脳や心臓疾患の二倍近くに達した。
ただ、因果関係の証明が難しいことなどから実際に労災と認定されるのは二~三割にとどまる。専門家は「日本を代表する企業で労災認定された意義は大きい」と指摘する。
今年五月に成立した女性活躍・ハラスメント規制法(パワハラ防止法)は(1)優越的な関係を背景に(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により(3)就業環境を害する-をすべて満たすことがパワハラの要件とした。企業に防止策を義務付け、大企業は二〇年六月、中小企業には二二年四月から適用される見込みだ。
上司の適切な指導とパワハラとの線引きは難しい。そのため厚生労働省は二十日、パワハラの具体例などを指針案にまとめ、同省審議会に了承された。
パワハラへの考え方は世代や業種、個人の間でも異なると思われる。「自分はこうした叱責を乗り越えてきた」「仕事はある程度厳しいもの」と考える向きもあろう。しかし、パワハラに苦しむ人が増え続け、悲劇的な結末につながるケースが後を絶たないのが現実である。
どんな目的であれ、人を傷つける言動を慎むということに尽きるが、人間と人間が触れ合う関係の中には、パワハラ的な言動が生じる恐れは常にあると言わざるを得ない。「起こり得る」との前提で、事態を深刻化させぬような方策を各企業・団体に求めたい。