(筆洗)「人間は壁を造りすぎるが、橋は十分に造らない」 - 東京新聞(2019年11月9日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2019110902000146.html
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科学者ニュートンが述べたととも、別の偉人のものともいわれる警句がある。「人間は壁を造りすぎるが、橋は十分に造らない」。分断はたやすく、分かり合うことは、まれであると読めるだろう。
第二次大戦後の欧米で、人類の分断を語る際によく使われている。象徴だったベルリンの壁が、崩壊からきょう三十年となる。驚きのニュースとともにもたらされた壁の上の人々のお祭り騒ぎの映像。今なお記憶にある人は、多いだろう。当時、ポーランドにいた西ドイツのコール首相は「パーティーを間違えた」とベルリンに飛んだそうだ。人類分断の時代が終わるのではないか。そんな高揚感がたしかにあった。
ドイツの統一、ソ連の崩壊など想像を上回る激動が、次々に起きる一方で、時代は地域紛争やテロ、大量の難民が象徴する新たな性格も強めていく。
人種、宗教、民族など、目に見えない壁をはさんだ激しい対立が中東などで生まれている。目に見える壁は、パレスチナや難民が押し寄せる欧州の国境地帯などで建設、強化された。
今から数年前に、「ニュートンの警句」をツイッターでつぶやいたのが米大統領を目指していたトランプ氏である。だから壁を造るのだと独自の読み方をしたようだ。米南部の壁は強化され、国際関係の中に新たな見えない壁も生まれた。三十年を経ても、世界に壁は多く、橋は足りない。