大川小の教訓 力を結集し子の命守る - 朝日新聞(2019年10月17日)

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東日本大震災津波で亡くなった宮城県石巻市立大川小の児童たちの遺族が、市側の責任を追及していた裁判で、原告側の勝訴が確定した。あらかじめ適切な防災体制を築いていなかった落ち度を認めた仙台高裁判決を、最高裁が支持した。
憲法違反などの論点は見当たらないとして市側の上告を退けており、「学校の安全」をめぐって最高裁独自の見解が示されたわけではない。だが、判決確定のもつ意味は重い。
市の津波ハザードマップでは大川小は浸水想定区域外にあった。それでも校長らには、マップを批判的に検討して津波の襲来を予測し、対応策を整えておく義務があったと高裁は結論づけた。近くを流れる北上川の洪水を想定した別のマップでは、大川小も浸水地域にあることなどが理由とされた。
高裁判決には後づけと思えるような指摘を含め、論理運びに強引な面がないわけではない。教育関係者から「現場に過度の負担を強いている」と疑問の声があがったのも理解できる。
だが判決は、児童の生命・安全を守ることが市や学校に課せられた重大な使命だという立場にたち、▽教員が数年で異動するなかで対応策の不備が放置された▽実情を把握すべき市教委も指導を怠った――などの問題点を重ねて指摘している。
首長部局、教委、学校が有機的な連携を欠いた結果が、3・11の惨事を招いた。当時の特定の人物や担当者ではなく、まさに組織総体の過失責任が問われたと見るべきだ。
震災の経験も踏まえて、近年子どもの安全を守るための取り組みが進んでいる。教員養成課程をもつ大学では、今年度から「学校安全への対応」が必修になった。不審者への対応などとあわせ、自然災害への備えも履修する。岩手大学は学校安全学の講座を創設した。
もとより学校や教員に頼り、すべてをゆだねる発想では限界がある。
例えば登下校時の見守りだ。中央教育審議会は今年1月、そうした校外での安全確保の役目は、保護者や地域住民、自治体が担うべきだとする考えを示した。教員の負担軽減策を検討する文脈で出てきたものだが、もっともな提案だ。
大切なのは、いつ起きるとも知れない災害への備えにせよ、日々の見守りにせよ、計画や実施体制をつくって良しとせず、学校を核に関係者が手を携え、環境の変化や最新の知見に基づいて、適切に見直していくことだ。その営みなしに、与えられた指示や役割に従うだけでは命を守ることはできない。大川小の悲劇が教えるところだ。