玉城県政1年 理念の実現へ公約履行を - 琉球新報(2019年9月30日)

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 玉城デニー知事が初当選から1年を迎えた。県政発足以降、随所で「玉城カラー」を打ち出してきた。沖縄を取り巻く課題は山積している。持ち前のしなやかさを、結果に結び付けていくための行動が今後はより求められよう。
知事は重要政策の立案、遂行に向けて設けた有識者らの「万国津梁(しんりょう)会議」で、基地問題、虐待防止と並ぶ先行3分野として国連が実現を目指す「持続可能な開発目標(SDGs)」の議論を始めている。
海兵隊員だった父を持ち、生みの母と育ての母がいる知事が、施策の方向性として掲げる一つが「沖縄らしい優しい社会の構築」だ。「沖縄のチムグクル(肝心)」「自立」「共生」などをキーワードに、SDGsの理念である「誰一人取り残さない」社会の実現を目指すと繰り返している。
沖縄の視点でSDGsを具現化し「多様性や寛容性を大切にした共生の社会」を目指す施策展開はこれまでなかった手法だ。玉城県政の大きな特徴であり、強みにもなる。
だが当然ながら具体的な成果が問われる。最重要政策に掲げる子どもの貧困対策をはじめ、中高生のバス通学無料化や子育て世代包括支援センターの全市町村設置、待機児童ゼロ、LGBT宣言など、「優しい社会」に向けた個々の選挙公約の進捗(しんちょく)はどうなっているのか。掛け声倒れに終わらせてはならない。
懸案である米軍普天間飛行場の返還と移設問題では過去の県政と同様、辺野古の新基地建設問題への対応に追われている。知事は政府との対話を重視する姿勢を示すが、安倍政権は工事を強行する姿勢を変えていない。
玉城知事は新基地に反対した故翁長雄志知事の後継候補として選挙では大差で勝利した。今年2月の県民投票や4月の衆院沖縄3区補選、7月の参院選沖縄選挙区でもその民意は揺らいでいない。
辺野古の工事は軟弱地盤で完成が見通せず、工費は県試算で最大2兆6500億円に膨らむ。中国などのミサイル射程内に地上戦闘部隊である海兵隊の基地を造ることへの軍事上の疑問も尽きない。
知事は工事阻止へ新たな訴訟を起こす一方、基地の過重負担や移設問題を全国で訴える取り組みも始めた。タレント経験もある知事ならではの発信力で国民に沖縄の不条理を問いつつ粘り強く打開策を模索し、民意を否定するような政権の振る舞いには引き続き毅然(きぜん)と対応してほしい。
「互いの政治的立場の違いを超え、歩み寄ることのできるウチナーンチュの包容力は、対立や分断を乗り越える賢さであり、最大の力だ」
昨年10月の所信表明で知事はこう表明した。次期振興計画や新たな産業・経済戦略の議論も進むが、沖縄の持続可能な発展へ「誰一人取り残さない」ためにも、まずは公約の履行に全力を挙げるべきだ。掲げた理念を施策の中で着実に実現させてほしい。