不自由展の再開 実行委の覚悟が問われる - 信濃毎日新聞(2019年9月27日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190927/KT190926ETI090008000.php
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再開にこぎつけられるだろうか。
国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」である。愛知県が設置した検証委員会の中間報告を受け、実行委員会会長の大村秀章知事が再開を目指す方針を表明した。
慰安婦を象徴した展示などに抗議が相次ぎ、「安全上の理由」で8月1日の開幕から3日で中止になっていた。
表現の自由」を侵害する問題だ。再開できないと、抗議をすれば意見に合わない展示を中止にできる前例をつくることにもなる。
海外を中心に計13の作家や団体が「中止は検閲」と訴え、トリエンナーレでの展示を中止、変更している。今後の国内の他の展示会にも影響しかねない。
「条件が整い次第、速やかに再開すべきだ」という検証委の中間報告と大村知事の方針は納得できる。ただし、条件を実現するのは簡単ではないだろう。
検証委が付けた条件は三つだ。脅迫や攻撃リスクの回避、展示方法や解説の改善、会員制交流サイトによる拡散防止―である。
抗議の電話やメールなどは計1万件を超えた。保育園などの危害を予告する脅迫もあった。表現を暴力でやめさせようとする行為は看過できない。社会に根を張る問題として考えなければならない。
運営上の安全を確保することは必要だ。再開すれば抗議もさらに増えかねない。職員の配置や対応手法、警備態勢など検討するべきことは多い。
展示方法には当初から問題が指摘されていた。作者が何を訴え、考えてほしいのか十分に説明することが欠かせない。検証委が展示方法に改善を求めたことに出展者側から反発も出ている。出展者が納得でき、来場者への説明も尽くせる方法を考えてほしい。
交流サイトの拡散防止はさらに困難だ。実現には議論が必要だ。会期末の10月14日まで時間は少ない。ハードルは高い。実行委の覚悟が問われる。
政治家の介入も問題になった。河村たかし名古屋市長が展示中止を要求。菅義偉官房長官文化庁補助金交付を慎重に判断する姿勢を示していた。文化庁は「手続きの不備があった」として交付しないことを決めている。
政治家が主義主張で表現を規制することは認められない。大村知事は「合理的理由がない」として裁判で争う姿勢を示した。不交付の理由が正当か、文化庁は公の場で明らかにしなければならない。