嘉手納爆音訴訟 苦痛の終わりが見えない - 信濃毎日新聞(2019年9月13日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190913/KT190912ETI090005000.php
http://web.archive.org/web/20190913010154/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190913/KT190912ETI090005000.php

夜は静かに眠りたい―。沖縄の人々の当然の願いは、今回も届かなかった。
米軍嘉手納基地の騒音被害を巡る第3次爆音訴訟の控訴審判決で福岡高裁那覇支部は、原告の飛行差し止め請求を退けた。
「基地管理は米軍に委ねられており、日本政府が規制できる立場にない」と理由を述べた。
政府には国民の人権を守る権限がない、と言っているのに等しい。「立場にない」なら、米国と対等な関係を築くよう政府や国会に強く迫るべきだろう。
旧日本軍の飛行場を拡張した嘉手納基地は嘉手納町北谷町沖縄市にまたがり、極東最大級の米空軍施設とされる。昼夜を問わず訓練が繰り返され、周辺の住民は「音につぶされる」ような苦痛を強いられている。
住民による第1次提訴は1982年。第2次、今回の第3次でも裁判所は、国に慰謝料の支払いを命じている。飛行差し止めは一度も認めていない。
各地の基地で続く住民訴訟も同様だ。横田、厚木両基地の米軍機について「国は運航を規制できる立場にない」とした、93年の最高裁判例が維持されてきた。
航空特例法により、米軍は飛行や運航に関し、航空法の多くの規定の適用を除外される。国土交通相への飛行計画の通報義務はなく承認を得る必要もない。
特例法は1952年に制定された。いまなお、政府が最低限の対応さえ取れないのなら、撤廃するほかあるまい。
日米両政府は96年に騒音防止協定を結んだ。航空法に基づく低空飛行訓練の実施、人口密集地の飛行への「妥当な考慮」も確認してきたものの、守るかどうかは米軍任せになっている。
那覇支部は判決で、騒音防止協定が守られているとは言い難く、「日本政府が履行を求める実効的な措置を取った事実を認める証拠はない」と指摘した。
騒音だけではない。度重なる米軍機の事故や、軍人・軍属による犯罪に、とりわけ沖縄県民は苦しめられてきた。
安倍晋三政権は7月、基地外で起きた米軍機事故の対応ガイドライン(指針)を改定したことを誇示した。が、日本側の現場への立ち入りに同意する裁量は米側に残されたままだ。
60年に発効した日米地位協定、その運用の根拠となっている合意議事録の存廃も含め、不平等な現状を抜本的に見直さない限り、問題は解決しない。