安倍新体制「挑戦」課題を見誤るな - 朝日新聞(2019年9月12日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S14174305.html
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閣僚19人中17人を交代させ、うち13人が初入閣というものの、刷新のイメージよりは、側近の重用と派閥の意向に配慮した内向きの論理が際立っていると言わざるをえない。
安倍首相が夏の参院選を受けた内閣改造自民党役員人事を行った。「安定と挑戦」を掲げ、内閣と党のそれぞれ骨格である麻生副総理兼財務相と菅官房長官二階俊博幹事長と岸田文雄政調会長を留任させた。
森友問題で公文書改ざんという前代未聞の不祥事を起こした組織のトップである麻生氏に対し、社説は繰り返し、政治責任をとって辞職すべきであると主張してきた。続投を決めた首相の判断は承服できない。
それに加え、首相は今回、加計学園獣医学部新設問題への関与が取りざたされた側近の萩生田光一・党幹事長代行を文部科学相に起用した。森友・加計問題は、いまだ真相が解明されていないというのに、既に「過去のもの」と言わんばかりだ。
萩生田氏が安倍内閣官房副長官だった16年10月、文科省の局長に対し「総理は『平成30年(2018年)4月開学』とおしりを切っていた」と伝えた――。そんな記録文書の存在が明らかになったのは17年6月。萩生田氏は発言内容を否定するが、文科行政のトップに立つ以上、うやむやにはできない。国会で納得が得られるまで説明を尽くす責任がある。
政治信条の近い議員の登用は萩生田氏ばかりではない。首相補佐官から1億総活躍相として初入閣した衛藤晟一氏は、新憲法制定を掲げる保守系の運動団体「日本会議」に中心的に関わってきた。総務相に再任された高市早苗氏については、前回、放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、電波停止を命じる可能性に言及し、放送への威圧と批判されたことを忘れてはなるまい。
一方、総裁選で争った石破茂・元幹事長の派閥からの起用はゼロだった。石破氏を支持した無派閥の小泉進次郎氏を環境相に抜擢(ばってき)したとはいえ、自らに批判的な勢力を干すような人事は、忖度(そんたく)をはびこらすだけではないか。閣内に入った小泉氏には、首相への苦言を辞さないこれまでの政治姿勢を貫けるかが問われよう。
首相は組閣後の記者会見で、新内閣が取り組む「挑戦」について、全世代型社会保障への転換など内外の諸課題を挙げたうえで「その先にあるのは憲法改正への挑戦だ」と語った。しかし今、国民の間に改憲を期待する機運があるとは思えない。党総裁としての残り任期2年の間に何を成し遂げるか、挑戦する課題を見誤ってはいけない。