https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190728/KT190726ETI090010000.php
http://archive.today/2019.07.29-094714/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20190728/KT190726ETI090010000.php
離婚してから300日以内に生まれた子どもは、前の夫の子とみなす―。民法が定める「嫡出推定」だ。明治以来の規定は時代を経て、戸籍がない人を生む大きな要因となっている。
実際の父親は別でも、嫡出推定により戸籍には前夫の子と記載される。それを避けるため、出生を届け出ない場合が多いからだ。そのまま、大人になっても無戸籍で暮らす人がいる。
その現状をどう改めていくか。法務省が設けた有識者らの研究会が民法の見直し案を公表した。
離婚後300日以内に生まれた子は、その時点で再婚していなければ前夫の子、再婚していれば現夫の子とみなす内容だ。それに伴い、女性の再婚禁止期間はなくす。今後、この案を参考に法制審議会の部会で議論する。
暴力を振るう夫から逃れたりして別居し、離婚前にほかの男性との間に子どもが生まれる場合もある。研究会の案のように条文を改めても、嫡出推定と実際の父親が異なることは起こり得る。
もう一つ大事なのは、その場合に父子関係の推定を覆す「嫡出否認」の規定だ。現民法は否認の申し立てを夫にしか認めていない。研究会はこれについても、妻や子にも認めることを提案した。
妻や子に否認権があったら、娘と孫が無戸籍になるのを避けられたとして国に賠償を求める裁判も起きている。嫡出否認の間口が広がれば、無戸籍の解消につながる人は多いとみられる。
法務省の調査で、無戸籍の人は全国に800人余。そのおよそ8割が嫡出推定を避けたためだという。把握できているのは一部で、支援団体は、少なくとも1万人に上ると推計している。
戸籍がなく、公的に存在を認知されないことは、さまざまな面で社会的な不利益を被り、人権と尊厳に関わる。劣悪な職場で働かざるを得ない人、住民票もないまま息をひそめて暮らす人もいる。
嫡出推定は、養育義務を負う父親を早く決め、子どもが不利益を受けないようにする目的がある。ただ、家父長制の時代と現代とでは家族や社会のありようは大きく異なる。深刻な弊害として無戸籍の問題が指摘されてきた。
長く見直しをなおざりにしてきた政府、国会の責任は重い。法制審での議論を踏まえ、生まれてきた子を無戸籍にしないための法改正を滞りなく進めなくてはならない。同時に、現に戸籍がない人たちを支援する手だてを講じていくことが欠かせない。