米軍が立ち入り拒否 基地内の調査権不可欠だ - 琉球新報(2019年7月12日)

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県民の健康や生活の安全を脅かしかねない環境問題ですら調査できない現状は容認できない。速やかに基地内の調査に応じるよう、政府は実効性のある対策を米側に迫るべきだ。
有機フッ素化合物による水質汚染で沖縄防衛局が嘉手納基地への立ち入り調査を要請したが、米軍は許可せず、防衛局が断念していたことが情報開示請求で明らかになった。県なども立ち入り調査を国へ要請しているが、国でさえこのありさまだ。
有機フッ素化合物にはいくつか種類がある。PFOS、PFOAなどはその一種だ。水をはじく性質をもたせる撥水(はっすい)剤や、器具のコーティングに使われるフッ素樹脂の製造など幅広く使用されてきた。環境中で分解されにくく、蓄積性がある。
健康へのリスクが指摘されており、発がん性や発達障がいなどの危険があるとされる。国際条約で製造、使用、輸出入も制限されている。
県内では地下水や河川への混入が相次いで確認された。これを機に水道水を利用せず、安全な飲料水を市販のペットボトルに求める市民もいる。
国内で規制基準が定まっていなくても、まさしく県民の安全に関わる問題だ。米軍とのやりとりなども開示請求を待たずに国が自ら公表してしかるべきだ。公務員は「全体の奉仕者」であることを改めて思い起こしてほしい。
沖縄防衛局は2017、18年度に立ち入り調査を米軍に要請したが、許可されなかった。いちいち米軍に許可を求めなければならないのは日米地位協定が米軍の排他的管理権を規定しているからだ。
15年9月に発効した環境補足協定も形ばかりだ。締結した際に安倍晋三首相は「事実上の地位協定の改定を行うことができた」と自画自賛した。
だが防衛局は、この協定に基づいて今回、立ち入り調査の請求をしなかった。立ち入りの要件をクリアするハードルはあまりにも高い。
環境事故の情報提供が米側から日本側にあったという前提条件に加えて「米軍の運用を妨げないなどと米側が判断した場合に限って」という要件もある。
請求を認めるかどうかは米側に裁量権があり、要件を満たすのは困難視される。名ばかりの補足協定だったことは明らかだ。日米間では複数の協定がこれまで合意されてきたが、実効性に乏しい。
水質汚染問題が発覚してから3年が経過した。政府自身が立ち入り調査さえできていない。その政府に県が要請しても進展は見通せまい。
ドイツは自治体が予告なしに基地へ立ち入る調査権を持つ。日本もこれにならい、主権国として地位協定の抜本改定に臨むべきだ。
国や県には収集した全情報を県民に開示し問題を共有する姿勢が求められる。汚染源を断つための具体的な対策を構築することこそ急務だ。